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大卒? 短大卒? 扱いさまざま、隠れた進学校でもある学校は?

高専教育の発見

 高専と聞いて、「ロボコン」を連想し、主に工業系の5年制高等専門学校と答えることが出来た人は、かなりの「高専通」だと編者の一人、浅野敬一さん(阪南大学経済学部教授)は書いている。「就職率100%で大半は大企業」「進学先は国立大学」と高い実績を持ちながら、その教育の内実や進路はほとんど知られていない「見えない学校」でもある。

 本書『高専教育の発見』(岩波書店)は、高専の第一期校が開校してからちょうど50年目の2012年から各高専が連携して実施した画期的な卒業生調査をもとにした、高専自身による「自己点検・評価」でもある。

 高専は中級技術者の養成を目的に1962年創設され、国立51校、公立3校、私立3校の計57校が全国に点在する。ほとんどは工業系でほかに4つの商船高専がある。5年制の本科の上に2年制の専攻科もある。

 「昔の高専の方が学生は優秀だった。今は高専卒の相対的な地位は低下した」という「本科没落説」も聞こえてくるが、高校、大学に比べて圧倒的にマイナーな存在の高専は、政府統計がなく、高専についての研究もないため、当然エビデンスもない。「ないなら自分たちで研究しよう」と「高専卒業生キャリア調査」を実施したのが本書の始まりである。

 調査に参加したのは、八戸工業、小山工業、東京工業、長岡工業、沼津工業、鈴鹿工業、和歌山工業、米子工業、宇部工業、阿南工業、佐世保工業、熊本(熊本キャンパス、八代キャンパス)、鹿児島工業の13高専(すべて国立高専)。こうして地名を挙げると、全国まんべんなく、しかも県庁所在地以外の県内第二・第三の都市に多く設置されていることが分かる。対象は卒業生名簿から各校900人、計1万2600人を抽出した大規模なものだ。

 入学前の中学時代の成績や進学の動機、高専時代の学習態度と成績、満足度、専攻科および大学進学者の学習と満足度、卒業後の仕事の内容、満足度、年収、高専教育に対する評価などを尋ね、回答率は28.6%だった。

 卒業年別・初職の就職先企業規模を見ると、この30年間、半数以上の者が大企業や官公庁に就職しており安定している。また高専入学者・本科卒就職者の学力も相対的に変化していないとして「本科没落説」を退けている。

 高専卒は大学並みかという議論についても、42~52歳における役職が部長・課長である比率は、高専卒41%に対し、国公立大卒39%、私立大卒35%で、遜色のない昇進機会を得ており、「高専本科卒は、修業年限が2年短いにもかかわらず、卒業後の就職状況やその後の職業キャリアは大学工学部卒就職者とほとんど変わらない。少なくとも私立大学の工学系卒業者の平均像と比較すれば、高専本科卒の方がむしろ有利な職業キャリアにアクセス可能と言ってよいだろう」と結論づけている。

 にもかかわらず「本科没落説」が流布しているのは、工学系国公立大卒との大学院進学率の違いがあるという。彼らの4割が大学院に進学しているのに対し、高専からは14%にとどまる。「技術者養成における大学院教育の比重が高まるにつれ、高専卒は依然として大卒と同等ながらも、結果的にその地位は低下せざるを得ない」と編者の一人、濱中義隆さん(国立教育政策研究所高等教育研究部副部長・総括研究官)は見ている。

東大、京大、東工大へも編入学

 濱中さんは近年、卒業後直ちに就職するのではなく、卒業生の約4割が大学などへ編入学するなど学習を継続していると指摘する。2015年3月の卒業生のうち、約4分の1(24%)が大学に編入学、高専の専攻科(高専卒で学士を取得できる)に約15%が進学。東大、京大、東京工業大などの難関大学に進む人も少なくないので、「隠れた進学校」と評されることもあるという。

 一方、自由記述欄には肯定的なものよりも、処遇・昇進・給与などで否定的なものの方が目立つ。「高専卒は会社によってはブルーカラーと捉えられていることを承知しておくべきだ」「自分の会社では高専卒業では技術職に就けず技能職になるだろう」。各種統計では「短大・高専卒」とくくられることが多い。

 高専の教育内容については「専門教育は素晴らしいが、一般教養、社会常識が弱い面がある」「やはり大学卒の方が語学のレベルが高い」など、人文的教養への渇望が見られる。

 これらを総合すると専門知識の深さやものづくりの能力の高さなどを自負しながらも企業の中では埋没しがちな無念さが同居しているようだ。

 本書の副題は「学歴社会から学習歴社会へ」となっている。編者の一人、矢野眞和さん(東京工業大学名誉教授)は、学歴よりも学習歴が評価される「高専モデル」を提唱し、「多様な学習の成果が適切に評価される社会の実現」を訴える。

 評者の周囲にも高専から国公立大に編入、大学院を経て会社に入り、技術者として活躍。働きながら国内のビジネススクールに通い、MBAを取得、新規事業の責任者として成果をあげた人がいた。彼は「某地方進学校に学力が一歩足りず、高専に行った」と話していたが、学び続ける姿勢に成功のカギがあるのだろう。

 それにしても発足から50年たつまで高専について本格的な調査が行われなかったことに驚く。高専の知名度とイメージをアップした「ロボコン」の功績は大きい。ところで、あなたの周辺に高専卒の人はいますか?   

  • 書名 高専教育の発見
  • サブタイトル学歴社会から学習歴社会へ
  • 監修・編集・著者名矢野眞和・濱中義隆・浅野敬一 編
  • 出版社名岩波書店
  • 出版年月日2018年4月24日
  • 定価本体2400円+税
  • 判型・ページ数四六判・256ページ
  • ISBN9784000229593
 

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