東日本の部落史研究はやや遅れていたそうだ。しかし近年、新たな史料も発掘され、研究が進んできたという。
そうした成果を背景に本書『東日本の部落史』の編集作業が始まったのは、2012年のこと。関係者がプロジェクトチームを組み、50数回の研究会、編集会議、草稿検討会を重ねて『第一巻、関東編』の出版にこぎつけた。
したがって、本書は単に個別に論文を集めたというものではない。専門的な研究者たちによる現時点での東日本の部落史についての研究を総合・集約したものといえる。
プロジェクトに参加したのは、1986年に創設された東日本部落解放研究所の研究員のほか、部落史や地域史に関心を持つ高校や大学の教員など30人。実際に執筆しているのは、これまでに関連書籍や研究論文を発表している50代から70代のベテラン12人だ。
本書では神奈川、千葉、東京など、関東の都県ごとに部落史をまとめている。中世から近代の歴史が軸になっている。伊豆は関東ではないが、関東一円に強大な勢力を誇った弾左衛門の勢力範囲ということで「特論」として本書におさめられている。
その弾左衛門については、「近世の部落史における弾左衛門体制」の項でさらに詳しく記されている。しばしば「浅草の弾左衛門」などといわれるが、勢力範囲はもっと広大。幕府・旗本・大名・寺社領にまでおよんでいたことがわかる。
本書は全3巻のシリーズの第一巻。2018年1月18日発売の第二巻では「東北・甲信越編」、第三巻では「身分・生業・文化」をテーマに、中世・近世・近代の部落史に迫っている。一般読者向けというよりは、主に研究者向けのシリーズだが、時代小説の作家や編集者などは無関心ではいられないだろう。創作のヒントになりそうな話が垣間見えるからだ。
例えば前述の「伊豆」。あちこちの湯治場には瞽女や座頭市、アウトローの渡世人などが身を寄せていた。そのほか様々な病人や故郷を離れ流浪する人々たちも。行き倒れになったら、誰が世話するか...。本書をベースに「伊豆湯治場無宿」のような時代物シリーズがすぐにでも書けそうだ。
本書に先行する類書としては1990年代前半に出た『東日本の近世部落の具体像』(東日本部落解放研究所編、明石書店)などがあるそうだ。かなりの時間が経っていることもあり、本書収録の論文の参照資料には90年代以降の新しいものが目立つ。確かに近年、研究が一歩進んだことがうかがえる。編者代表の藤沢靖介・東日本部落解放研究所副理事長は「読者の検討・活用と研究のさらなる進展を切望したい」としている。
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