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えっ、台湾には米軍基地がないの?

戦後日本を生きた世代は何を残すべきか

 しばしば「戦後世代」という言葉を聞く。いったい何歳ぐらいの人のことか。本書『戦後日本を生きた世代は何を残すべきか』(河出書房新社)は評論家の佐高信さんと、寺島実郎さんの対談だ。佐高さんは1945年生まれ、寺島さんは47年生まれ。ともに70代のシニア。「戦後の第一世代」だが、相変わらず意気軒高のようだ。「われらの持つべき視界と覚悟」という副題が付いている。

現在の日本に不満

 佐高さんは慶應義塾大学卒。高校教員、経済誌編集長を経て評論家として独立、辛口の毒舌で知られる。多数の著書がある。寺島さんは早稲田大学政経学部大学院修了。三井物産戦略研究所会長や日本総研理事長などを経て多摩大学学長。1994年には「新経済主義宣言――政治改革論議を超えて」(『中央公論』1994年2月号)で第15回石橋湛山賞を受賞している。テレビのコメンテーターとしてお見かけすることも多い。

 二人は2歳しか年齢が違わないので、おおむね同世代と言える。寺島さんにとって佐高さんは「兄貴のような存在」だという。おそらくはともに脱脂粉乳の給食で育ち、「三丁目の夕日」のような昭和30年代を経て地方から上京。1960年代後半の学生運動の高揚を身近で見聞したことだろう。その後、寺島さんは、大手商社員として「ジャパン アズ ナンバーワン」へと突き進む日本経済の躍進を自ら牽引し、佐高さんはその姿を、どちらかと言えば裏側からシニカルに見る立場だった。

 似たような時代感覚を持つ二人の共通項は、現在の日本に対する不満だ。米国に追随しているだけで独自のポリシーがない。将来、どうなっていくのか。本書の基調はそのあたりにある。

首都圏に二つの「米軍ゴルフ場」

 本書は「第1章 日米『不平等』同盟の核心」「第2章 全体知に立った構想力へ」「第3章 『微笑み鬱病』の時代」「第4章 石原莞爾と大川周明のアジア」「第5章 日本近代史最大の教訓」「第6章 『孤独』から『連帯』へ」「第7章 戦後日本の矜恃」という構成。

 「第1章 日米『不平等』同盟の核心」ではこんな話が出てくる。「台湾には米軍基地がない」。米国は中国を承認しているので、当然と言えば当然だろう。では台湾有事の際に米軍はどうするか。グアムか、沖縄の基地を使って中国と向き合うことになるに違いない。日本にある米軍基地の7割が沖縄にあるのはなぜか。日米安保条約は「アメリカにとって日本を守るために存在しているのではないことを知るべきです」と寺島さん。

 その基地の実態にも切り込む。「米軍は、二つのゴルフ場を首都圏に確保している・・・占領軍のステイタスのまま、あたかもアーミー・ネイビー・クラブを日本に持っているようなありようです」。

 日本では、日米安保で日本がアメリカによって守られているから、経費負担は仕方がないという空気が支配的だ。本当にそうなのか。長年の米国駐在経験のある寺島さんは、シビアな見方だ。

 「日本はいまだに、米軍が占領軍のステイタスのままの地位協定を抱え込み、21世紀に入ってからもトータル10兆円を超す、つまり年間6000~7000億円の思いやり予算を含め、米軍基地のコスト負担をしてきたわけです。これは米軍基地にかかるコストの約7割にあたる。米軍は、グアムに置くよりもハワイに置くよりも、さらにアメリカ本土に置くよりも、日本に置くほうがコストがかからない」
 「要するに『日米同盟は不平等』なんです・・・これがもし明治時代だったら・・・日本人の誇りをかけて不平等条約の改定へと立ち向かったはずですよ」

 ドイツはすでに1993年の段階で、在独米軍の規模を4分の1以下に縮小しているという。

東北は日本の中のアジアだ

 二人の共通の関心は、「第4章 石原莞爾と大川周明のアジア」に集約される。寺島さんは言う。

 「いまの日本に跋扈しているのは矮小な日本主義です。一方、かつてナショナリストと言われた石原莞爾と大川周明は、戦争を挟んで、ファシズムの思想家として極めて批判的に評価されるようになりました。しかし、いま我々が気づかなければいけないポイントがある。それは彼らはアジアとの共感という視点を持っていたことです」
 「ところがいま我々の周りにいる自称ナショナリスト、愛国者たちは、中国が危険だ、韓国が嫌いだと言うばかりで、アジアへの視界を一切失っている」

 「私たちは逆立ちしても大川周明や石原莞爾に共鳴しきることはできない」と言いつつも力を込める。石原も大川も、佐高さんと同じ山形出身なので、佐高さんが補足する。

 「大川周明の位置づけですが、私は同郷ということでわかることがあります。つまり、東北というのは日本のアジアなんです。置き去りにされた東北から見ると、アジアは自分のことなんですね」

 佐高さんは、北一輝についても語る。「北一輝には『抵抗としてのアジア』という視点があった。またそれを実践した。・・・北一輝が中国革命に併走しようとしたことは確かだし、日本の中国蔑視や帝国主義的なアジア政策を批判してもいます」。

 しかし、「中国革命を支援したエネルギーも、突き詰めれば日本が盟主になったアジアの連携というところに落ち着いていく・・・実際に現場で行われていたことは、ある面では『侵亜』だったのです」(寺島さん)。「帝国主義への道を進もうとした体制側も、アジアとの連帯、アジア解放を構想したはずの反体制右翼の側も、結局のところアジア侵略に行き着いたというのは、痛烈な日本近代史の総括ですね」(佐高さん)。

鉄条網の向こうから柄杓の水をもらう

 こうして戦後世代の二人は、戦前の日本とアジアの関係に思いを巡らしながら、今日の日本の姿を憂える。

 「気がつけば日本を除くアジアのGNPが日本の4倍になっている。日本が国連の常任理事国になったとしても、『アメリカの1票を増やすだけで、アジアの1票を増やすことにはなりません』という答えが返ってくるような状況に我々はいます」(寺島さん)
 「冗談半分に言ったことがあるんですが、安倍はアメリカの51番目の州知事に過ぎないのではないか、と。ただ、アメリカからすると日本は、州と言うよりも、自分に尽くしてくれる下僕なのでしょうね」(佐高さん)

 寺島さんが大学を出て三井物産に入社したころはまだ「戦争帰り」の上司がいた。その一人で、シンガポールの捕虜収容所の経験がある上司と飲み屋に行くと、定番のように涙ぐみ絶句するシーンがあったという。鉄条網に囲まれ、強制労働させられて水が飲みたいと思っても飲めないときに、誰とも知らぬシンガポールの人が、鉄条網の向こうから柄杓で水を飲ませてくれたというのだ。同じアジア人として、捕虜になった者に同情してくれる人がいたと。

 寺島さんは強調する。「まさに一兵士として戦争を経験した人、一兵士として捕虜収容所に入れられたり、シベリア抑留された人が、我々の世代の前にはいた。その人たちが持ち帰った空気を、我々は簡単に忘れてはならない。それが戦後日本に向き合う時の起点だということを言っておきたいですね」。

 本書は対談なので、一つのテーマについて深く突っ込んでいるわけではない。しかし、二人は博識なうえ、話し上手でエピソードも豊富。本書を通して手軽に「戦後第一世代」の今も噴出する熱い思いと悲憤慷慨ぶりを知ることができるのは確かだ。

 
  • 書名 戦後日本を生きた世代は何を残すべきか
  • サブタイトルわれらの持つべき視界と覚悟
  • 監修・編集・著者名寺島実郎、佐高信 著
  • 出版社名河出書房新社
  • 出版年月日2019年9月30日
  • 定価本体980円+税
  • 判型・ページ数四六判・200ページ
  • ISBN9784309028064
 

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