1999年11月、国立代々木競技場施設内特設テントで嵐の握手会が行われた。朝5時過ぎに原宿駅から会場に向かった評者は、SMAPのような国民的スターでもないのにものすごいファンの数だな、と思ったのを覚えている。その日、嵐は8時間半にわたり約8万人のファンと握手した。
デビューから20年が経った昨年(2019年)1月、嵐は2020年いっぱいでグループとしての活動を休止すると発表した。残り1年を切ったいま、嵐の動向がこれまで以上に気になるところだ。
活動休止前に読んでおきたいのが本書『『嵐、ブレイク前夜』外伝 嵐、青春プレーバック』(宝島SUGOI文庫)。嵐はデビュー曲で100万枚近いセールスを記録したものの、意外なことに、その後は売り上げが伸び悩み「ジリ貧」の時代があった。いまや国民的スターとなった嵐をそうした不遇時代から支えたのが、本書の著者である元「嵐」側近スタッフ一同だった。
2015年に『嵐、ブレイク前夜』、16年に『『嵐、ブレイク前夜』外伝 嵐、青春プレーバック』(ともに主婦と生活社)が刊行された。本書は後者を加筆修正し、文庫化したもの。『嵐、ブレイク前夜』で語りきれなかった嵐の秘話や思いを外伝としてまとめている。
本書はメンバー間の関係性、事務所の先輩・後輩、アイドルとしての葛藤など、知られざるエピソードが満載。5人の性格の違いがよくわかるエピソードと、これジャニーズ事務所に怒られない? という裏話が混在している。美談で無難にまとめることなく、読者の期待に応えるきわどい、濃い内容になっている。
「ライブでも、テレビなどのメディアでも、私たちが見ることができる嵐は彼らの選りすぐりの部分だけです。仕事の現場では、その何十倍、何百倍もの時間を費やして打ち合わせやリハーサルが行われ、また収録や取材の内容もその一部しか使われません」
この部分を読み、嵐のことをよく知っているつもりでも、実はそうでもないのかもしれないと思った。元・側近スタッフの詳細は不明だが、エピソードの内容から嵐との密接な距離感がうかがえる。本書は、メディアにつくられたイメージやネットの噂話と一線を画したものと言える。
本書は「第1章 嵐外伝」「第2章 プライベートの嵐」「第3章 現場の嵐」「第4章 嵐の交友記」「第5章 メンバー同士の関係」「第6章 それぞれのメンバーへ ~スタッフからの手紙~」「第7章 これからの嵐の進み方」「新章 2020年を迎えた、ジャニーズ事務所の現状、そして未来」からなる。
少し長くなるが、5人の人柄を感じられる部分をここで引用したい。
「当時の櫻井はまだアイドルをやってる自分に自信が持てず、大企業に就職するような先輩たちには一種の引け目を感じていた。......アイドルとしての自分を心から誇れるようになるのは、嵐が本格的ブレイクを果たしてから」
「(舞台の千秋楽を終えた打ち上げの席で)涙ぐんでしまったのです。プレッシャーからの解放感、自分なりにやりきったという達成感......。『大ちゃんがちょっぴり自信を持てた日』が、このときでした」
「もともと二宮は、メンバーやスタッフに芝居の相談をしたり、感想を求めることはしないタイプ。それでも、メンバーに会ってふざけあったりすることで、救われる部分はあったのでしょう。......天才肌の二宮が珍しく悩み苦しんでいた話です」
「(ラジオで)ちっちゃい子が母親に手伝ってもらって書いたようなたどたどしいお便りを、なるべく紹介するようにしていました。......それを相葉が一生懸命に読むことでほっこりとした雰囲気が生まれます」
「美容食や美容グッズにハマりやすく、なんでも試してみるのが松潤スタイル。ストイックで、ちょっと理屈っぽく、とにかく純粋な性格がうかがえます」
文庫化にあたり設けられた「新章」では「ジャニーズ及び日本の芸能界の、ひとつの時代の区切りを感じさせた象徴的な出来事」として、ジャニー喜多川氏の逝去にふれている。さらにジャニーズ事務所の新体制、退所したタレントの行方、嵐の活動再開の有無にまで踏み込んで書き下ろしている。
本書は、ジャニーズ事務所に忖度した本でも暴露本でもない。「嵐を身近で感じて過ごしてきた」元・側近スタッフが、嵐の素の姿を愛情深く書き記した本だ。書き手から嵐へ向けられるあたたかい眼差しを感じた。1ファンとして、活動休止後も5人に声援を送りつづけたいと思うばかりだ。
30代、40代のファンの方にとっては、嵐のあの曲を聴きながらあの頃あんなふうに過ごしたな......と、自身も「青春プレーバック」できる1冊になっている。
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