表紙とタイトルが、真っ先に目に飛び込んできた。このシンプルさ、潔さが、工夫を凝らした装丁よりもかえって目立つ。
本書『読みたいことを、書けばいい。』(ダイヤモンド社)は、電通で24年間コピーライター・CMプランナーとして活動した後、フリーライターに転じた田中泰延(ひろのぶ)さんによる初の著書。
最初に断っておくと、本書はサブタイトルに「人生が変わるシンプルな文章術」とあるが、いわゆる「文章術」を懇切丁寧に指南するものではない。それでも、今年(2019年)6月の発売から好調に売れ行きを伸ばしているのは、異色の「文章術」が書かれているからだろう。
まず、著者の田中泰延さんについて紹介したい。
1969年大阪生まれ。早稲田大学第二文学部卒。学生時代に6000冊の本を乱読。93年株式会社電通入社。24年間コピーライター・CMプランナーとして活動。2016年に退職。「青年失業家」を自称し、フリーランスとしてインターネット上で執筆活動を開始。webサイト「街角のクリエイティブ」に連載する映画評が累計330万PVの人気コラムになる。映画・文学・音楽・美術・写真・就職など、硬軟幅広いテーマの文章で読者の支持を得る。
本書は以下の構成になっている。
はじめに 自分のために書くということ
序章 なんのために書いたか ――書いたのに読んでもらえないあなたへ
第1章 なにを書くのか ――ブログやSNSで書いているあなたへ
第2章 だれに書くのか ――「読者を想定」しているあなたへ
第3章 どう書くのか ――「つまらない人間」のあなたへ
第4章 なぜ書くのか ――生き方を変えたいあなたへ
おわりに いつ書くのか。どこで書くのか。
ライターになりたい、多くの読者に読まれたい、そのための「文章術」を身につけたい...。そんな希望を持って本書を手にすると、スタート地点から覆される。
「はじめに」で田中さんは「本書は、世間によくある『文章テクニック本』ではない。」「『テクニック』は必要ないのだ。」と断言している。そして、本書を貫くテーマをこう書いている。
「本書では、『自分が読みたいものを書く』ことで『自分が楽しくなる』ということを伝えたい。いや、伝わらなくてもいい。すでにそれを書いて読む自分が楽しいのだから。自分がおもしろくもない文章を、他人が読んでおもしろいわけがない。だから、自分が読みたいものを書く。それが『読者としての文章術』だ。」
さらに、「自分が楽しくなる」の意味を明確にしている。
「単に気の持ちようが変わる、気に食わない現実をごまかす、ということではない。書くことで実際に『現実が変わる』のだ。そんな話を始めたい。」
本書は、「書くためのテクニック」ではなく「書くための考え方」を示すもの。冗談や脱線をまじえつつ、時に辛口な田中さんの話を聞いていると、要所要所でズバリ本質的な話が出てくる、というスタイル。一体どんな「文章術」が書かれているのか? 具体的にイメージしていただけるよう、印象的だった箇所を引用すると...
「ほとんどの人は...出発点からおかしいのだ。偉いと思われたい。おかねが欲しい。成功したい。...この本は、そのような無益な文章術や空虚な目標に向かう生き方よりも、書くことの本来の楽しさと、ちょっとのめんどくささを、あなたに知ってもらいたいという気持ちで書かれた。」
(「出発点が間違っている人へ」)
「調べもせずに『文章とは自分の表現をする場だ』と思っている人は、ライターというフィールドでは仕事をすることができない。いまからでも遅くはない。そういう『わたしの想いを届けたい!』人は、歩道橋で詩集を売ろう。」
(「物書きは『調べる』が9割9分5厘6毛」)
「書けば書くほど、その人の世界は狭くなっていく。...しかし、恐れることはない。なぜなら、書くのはまず、自分のためだからだ。あなたが触れた事象は、あなただけが知っている。あなたが抱いた心象は、あなただけが憶えている。」
(「書くことは世界を狭くすることだ」)
読者の知りたいことについて、直球ではなく変化球で答える。本書は、ひねりのある「文章術」の本と言える。逆に言うと、他で読んだことのない考え方が書かれているから発見が多い。ここで紹介しきれなかった要素がまだある。ぜひ本書を手に取り、田中さんの異色な「文章術」を堪能していただきたい。
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