本書『ビジネスパーソンの新・兼業農家論』(クロスメディア・パブリッシング 発行、インプレス 発売)は、「今の仕事を辞めずとも、都市と農村を自由に行き来しながら、そこに農を絶妙に組み込んだパラレルワークを実践する方法」を示した本だ。コロナ禍の影響で、地方や郊外への移住や農業への関心が高まっている折、タイムリーな一冊だ。
著者の井本喜久さんは、一般社団法人The CAMPus代表理事。東京と広島県竹原市を行き来しながら、小規模農家の育成にかかわる仕事をしている。
もともと竹原市の限界集落にある米農家出身。東京農大を卒業後、広告業界に入り、その後、起業したが、妻ががんになったのを機に健康的な食に対する探究心が芽生え、2017年、インターネット農学校The CAMPusを開校した。
全国約70人の成功した農家の暮らしと商いの知恵をワンコインの有料ウェブマガジンとして約2000人の生徒に向けて配信している。2020年には小規模農家の育成に特化した「コンパクト農ライフスクール」を始めた。
井本さんは以下の10の項目をチェックしてみてほしいと書き出している。
・近ごろ、無性に農業が気になる。 ・都会での暮らしからドロップアウトしたいと思っている。 ・ぶっちゃけ、今の仕事が面白くない。 ・全国を飛び回りながら、多拠点生活が成り立つ暮らしや仕事に興味がある。 ・自分の心が勝手に「自然との触れ合い」を求めている。 ・最近、「食」や「健康」に興味がある。 ・「環境」「持続性」「循環」「SDGs」などの言葉に反応してしまう。 ・実家や親戚が農家である。 ・田舎での丁寧な生活に憧れてしまう。 ・家庭菜園とか週末農業を始めようと考えている。
このうち3つ以上にチェックが入ったら、あなたの人生に「農」を取り入れることで、これから先の未来は10倍面白くなるという。
本書では「農業」と「農」を区別している。「農業」はビジネス、仕事だが、「農」は、一種の文化価値のことであり、仕事にする・しないに関係なく、農作物を作りながらの「自然と共にある生活」そのものを指す。
構成は以下の通り。
序章 今「農家」こそ最高の職業だ! 第1章 時代の最先端「新・兼業農家」 第2章 「農」という文化価値のオモシロさ 第3章 「コンパクト農ライフ」で可能性は無限大 第4章 「新・兼業農家」の始め方 第5章 「農」が持続可能な社会を作る
千葉県館山市に移住、地域おこし協力隊として働きながら、マンゴー農家に弟子入り。任期が終わると同時に独立して、パッションフルーツ作りを始めた人を紹介している。おいしいパッションフルーツづくりを極めて、1年目から収穫したパッションフルーツを完売させ、2年目からは加工して「リリコイバター」を製造。サーファー、農家、食品メーカーとして全て一人でこなしながら、毎日東京へ通勤する妻と二人、充実した暮らしを送っている。
このほかにも兵庫県淡路市、茨城県鹿嶋市、宮崎県美郷町、山梨県北杜市で成功した農家の例を紹介している。ポイントは農作物を作るだけでなく、加工し販売することで付加価値を高めていることだ。
農業は1次産業と言われたが、加工する(2次産業)、販売する(3次産業)と組み合わせ、農業の6次産業化と言われ、全国の農村で取り組みが始まっている。
井本さんは「農業って実は楽しくて、カッコよくて、健康的で、儲かるんだ、という事実」について、本書で説明している。
巻末には新規就農Q&Aが付いており、農地の選定方法、取得方法、農作物の栽培方法の教わり方、初期投資額などをレクチャーしている。
都市から農村への移住と言えば、定年後というイメージがあったが、本書を読み、若い人が各地でさまざまな取り組みをしていることを知った。
井本さんはコロナ禍の影響で、オンラインで「コンパクト農ライフスクール」を始めた。セミナー型よりも生徒の満足度は高く、オンラインでの開催の方がよかった、と書いている。こうしたテクノロジーへの理解が、井本さんが言うところの「新・兼業農家」の条件なのだろう。
コンパクト農家の基準値は「0.5ヘクタールで年商1000万円」と設定している。さまざまな例を読むと、決して手の届かない数字ではないようだ。
月に半分は広島で農家をしている井本さん。やり方次第で都市と農村との二拠点居住は夢ではないことを示している。
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