「飽食」が取りざたされる現代では、それに付随する問題といえば「フードロス」ということになる。豊かな食生活は実は、食料危機への引き金を引く可能性をはらむ。わが国の自給率は4割。頼りの輸入が途絶えるなどの事態よっては「3人に1人が餓死」の恐れもあるという。
現代の日本の「食」の豊かさは、輸入頼みで支えが脆弱であり、その実態は「砂上の飽食」。本書『農業崩壊 誰が日本の食を救うのか』(日経BP社)は、そう指摘する。将来、国際市場で成長を加速する新興国との競争に負けることも考えられ、いつ崩れ落ちるかもしれない。その筆頭格である中国の貪欲ぶりをみると現実感は増す。
ならば自給率を高めるようにすればいいのではと思うところだが、そのこと自体も簡単ではないし、また、単に自給率を高めればいいという問題でもない。というのも、仮にいまの農地をフルに活用しコメや麦を中心に「栄養バランスのいい食事」を供給しようとしても、人が1日に必要なエネルギーの69%にしかならず、そんな食生活が続くと「3人に1人が餓死」となる。
自給率を高めるにも、その担い手が見当たらない。日本の農業は生産力向上に努め収穫を増やし、その一方で輸入も拡大。需要が満たされるようになってからは価格は下降し農業は収益的に魅力が薄れ、そのなかで国は政策として、価格下方圧力をしのぐ農家運営として兼業の仕組みをすすめてきた。だが少子高齢化の背景もあり、もうからない農業とあっては後継者がいない。かくて「高齢の兼業農家の地滑り的リタイアで日本の食料の生産基盤の『崩壊』が加速度的に進行している」と本書は指摘する。
著者は、日本経済新聞の経済部編集委員。同紙系列のウェブサイトで「ニッポン農業生き残りのヒント」を連載中で、農業についての著作もある。
本書で著者は、国内の生産基盤の弱体化にストップをかけ、農業の再生を図るため、独自の3つのキーワードを掲げ、それらを元に読み解く「異端の農業再興論」を展開する。3つのキーワードとは「小泉進次郎」「植物工場」「企業の農業参入」。
「小泉進次郎」は自民党衆院議員の、あの小泉進次郎氏だ。2015年10月から2年間、同党農林部会長を務め「農政新時代」といわれる、転換期を創出したリーダーシップは、一部からは批判があったものの、農業改革の旗手ともみられている。
本書では全国農業協同組合連合会(全農)をターゲットに挑んだ「改革」などに触れ、農協側のトップに良き賛同者を得られたこともあって成果を挙げたことを指摘。今後、政治家として、父である小泉純一郎元首相が実行した郵政改革のように、農政に歴史的変革をもたらすのではと期待を寄せる。
「植物工場」「企業の農業参入」は、これまでにも例はあるが、耕作放棄地などをそれらに活用しようにも、そのままではちょっと建物も建てられないなど、旧態依然の農地法にブロックされているのが現状だ。こちらも「小泉進次郎」の改革しだいか。
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