大きな企業不祥事のなかで必ずといっていいほど設けられるのが第三者委員会だ。本書『「第三者委員会」の欺瞞』(中公新書ラクレ)は、それが経営陣の免罪符や歪んだ企業体質の隠れ蓑になり、一方で弁護士業界の新たなビジネスチャンスとなっている現状を多くの事例をもとに検証し、厳しく批判している。
大物弁護士を委員長に据え、公認会計士や学者が委員として脇を固め、弟子筋の若手弁護士が実務を担う。数か月を経て出来上がった報告書を経営陣は「神の審判」とばかりに恭しく受け取り、不正の再発の防止と会社の再生を誓う。これが定番の流れである。
著者の八田進二さんは会計専門家の倫理を専攻し、長らく教鞭をとってきた。あわせて、第三者委員会報告書を在野の立場から評価する「格付け委員会」のメンバーも務める。コーポレート・ガバナンスを社会に先駆けて研究し、その実践を提唱してきた論客だ。そうした知見をもとに、第三者委員会の真贋を冷徹な筆致で分析している。
「第三者」という看板からも、期待される役割からも、コーポレート・ガバナンスと同じく欧米からの移植と思いこんでいたが、実は1997年に経営破綻した山一証券が第一号、日本オリジナルだという。筆者が「禊のツール」と喝破するのも、日本の企業風土に根差したものというのであれば得心がいく。
嚆矢となった山一の報告書は、創業100年を迎えた名門証券の破綻までの歩みを、社内役員に社外の弁護士も加わってまとめ、無責任な経営がもたらした災厄について悔恨を交えて描写し、大きな衝撃を与えた。
しかし、命脈を絶たれた企業がわざわざ報告書を出すなど例外中の例外。その後は不祥事で社会的信用を失った企業の再出発に重点が移る。後に逮捕された経営者を擁護した報告書まで出る始末で、粗製乱造に危機感を覚えた日本弁護士連合会が2010年に「ガイドライン」を出すに至った。
本書が取り上げた第三者委員会 ・朝日新聞社(慰安婦報道問題) ・東芝(不適切な会計処理) ・東洋ゴム工業(免震積層ゴムの認定不適合) ・日本オリンピック委員会(東京オリンピック招致活動) ・神戸製鋼所(検査結果の改ざん) ・雪印種苗(種苗法違反) ・日本大学(アメフトにおける重大な反則行為) ・東京医科大学(入学試験における不適切行為) ・厚生労働省(毎月勤労統計調査を巡る不適切な取扱い) ・レオパレス21(施工不備問題)
それでもオリンパスのように、高い国際競争力を持つ企業が外資の手に渡ることを防ぐ思惑から生まれた第三者委員会が登場するなど、重宝な存在であることは変わらない。
筆者が求めるのは、依頼する側も引き受ける側も腹を括って取り組むことに尽きる。その結果を報じるメディアも目先の犯人捜しで満足するのでなく、不正が起こる組織の土壌に目を凝らさねばならない。
「過払い金請求」と並ぶ新たな弁護士ビジネスとなり、それでなくても大きな痛手を被っている会社が委員会経費を払うことに、株主や社外取締役は厳しい目を向ける必要がある。社内の不満や不信が残れば、抜本的改善にならずに、いずれ再発するだろう。
著者はお手本も示してくれた。農家を支える種子や苗の販売で最大手の雪印種苗。本来の品種と異なる商品を販売していた不正が暴露した同社が依頼した第三者委員会が、弁護士を委員長に据えたのは定番だが、経営倫理研究の第一人者や知的財産法の専門家を委員に迎え、関係者のメールを徹底的に洗い出した。その結果、過去の社内調査のでたらめぶりをあぶりだし、新たな不正まで発見した。現職の社長は引責辞任に追い込まれる。本気で第三者委員会を設けようとするのなら、そこまでの覚悟が求められるということだろう。
もう一つ、興味をひかれたのは朝日新聞が設けた第三者委員会への批判だ。報道機関として自らがまず調査委員会を立ち上げて、身を切る思いで真相解明に取り組むべきではなかったか。それは報道の自由を守ることになるという批判は重い。
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