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数字に弱い「文系人間」も楽しく読んで理解できる

会計の世界史

 会計の知識がビジネスに欠かせないと分かっていても、数字を前にすると尻込みしてしまう。貸借対照表(バランスシート)、損益計算書までは、どうにかついていけても、利益処分計算書、キャッシュフロー計算書となるとお手上げ。本書『会計の世界史』(日本経済新聞出版社)は、そんな文系人間こそ楽しく読み進むことができ、会計の歴史と考え方、そして仕組みが頭に入ってくる。決して本屋の惹句ではない。

名画や名曲が彩り添える

 出版から1年が近づくが、いまだにあちこちの書評に取り上げられるのも、その「効用」が浸透している証左であろう。この欄で取り上げることにしたのも、同じ理由からである。

 本書は15世紀イタリアの「銀行革命」から21世紀アメリカの「価値革命」まで、全9章で会計制度の発達の足取りをたどる。感心させられたのは、舞台回しに使った題材選びの巧みさ。イタリアとオランダを舞台に、近代的な簿記、会計と株式会社制度の誕生を描く第1部には「最後の晩餐」「夜警」など、それぞれの時代になじみの深い名画が登場し、イギリスでの財務会計の歴史を追う第2部では蒸気機関車、蒸気船、自動車の三つの発明が、アメリカでの管理会計とファイナンス理論の進化がテーマとなる第3部ではジャズやロックなどの名曲が彩りを添える。

 自らの事業の利益を正しく知るために発達した会計が、投資家に向けた情報発信の重要なツールとなり、ついに将来の価値を推し量る機能を備えるまでの知識を深めることで、近年大いに論じられるようになったコーポレート・ガバナンスへの見方も変わってくるだろう。

オランダ東インド会社はなぜ行き詰ったか

 もう一つ、いろいろと蘊蓄の種が増える効用がある。たとえば、日本にも縁の深いオランダ東インド会社。1602年に発足し、長崎の出島にも進出した株式会社の先駆けは、1799年にひっそりと解散した。没落の背景には、資金は集めても、商売で運用し、増やす能力に欠けた未熟な経営があった。売れ筋商品が見極められず香辛料、茶、砂糖の三点セットからの脱皮ができず、人気の出た絹織物、綿織物へのシフトができなかった。その背景としてずさんな会計管理、内部留保の充実を軽んじた配当政策、不正へのチェック機能の甘さという今の企業経営にも通ずる弱みが浮かび上がる。歴史は繰り返すである。

 著者は公認会計士だが、難しい数式や専門用語を使うことなく会計の世界を伝えることを心掛けたという。日本橋近くのマンションの事務所は巨大な書庫と化し、そのなかで執筆に余念がない。小さな活字で6ページに詰め込んだ参考文献の数々を目にするだけでも、その意欲が伝わってくる。

BOOKウォッチ編集部 コポガバ)

  • 書名 会計の世界史
  • サブタイトルイタリア、イギリス、アメリカ――500年の物語
  • 監修・編集・著者名田中靖浩 著
  • 出版社名日本経済新聞出版社
  • 出版年月日2018年9月26日
  • 定価本体2200円+税
  • 判型・ページ数A5判・424ページ
  • ISBN9784532322038
 

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