「大丈夫。やれる。なぜなら僕たちはカッコいいものが大好きな十四歳の中学生で、それはつまり、無敵ということなのだ」――。
浅原ナオトさんの本書『御徒町カグヤナイツ』(株式会社KADOKAWA)は、子どもでも大人でもない、そのまじりあったところにいる中学生が、あふれる怒り、迷い、好奇心をエネルギーに代え、信じる道を突き進んでゆく冒険譚だ。
「月に人が住む王国があるの、知ってる?」――。ヒロトは上野・不忍池で少女に逆ナンされた。少女の名はノゾミ。ノゾミは月のお姫さまを名乗り、月へ帰還する前に地球の彼氏がほしいこと、入院先の病院まで会いに来てほしいことを告げて去った。
竹取物語風の設定でファンタジーが始まるかと思ったが、ノゾミは病に冒されていて、月へ帰還することには別の意味が込められていた。
本書のタイトルにもなっている「御徒町カグヤナイツ」とは、月の姫(カグヤ)を守る4人の少年(ナイツ)が結成した騎士団のこと。構成メンバーは次の4人。
ヒロト......風俗嬢の母に女手一つで育てられる。「戦士」
ケイゴ......ヤクザを父に持つ不良のサラブレッド。「武闘家」
ソン......中華料理店を営む中国人夫婦の息子。「魔法使い」
カトウ......鍵開けが得意。名前にコンプレックスを持つ。「盗賊」
特別な絆で結ばれた4人――ただ漫然と日々を過ごすヒロト。父親の圧力により、高校進学を諦めヤクザになると決めたケイゴ。日本出身の中国人である自分のアイデンティティに揺れるソン。何者でもない自分は見下されていると憤るカトウ――は、ノゾミを守るため奔走するとともに、自分たちを縛りつけているものとの闘いに挑んでゆく。
「無限の可能性なんかない。僕は無敵でも最強でもない。......中途半端に成長した中学生のクソガキだ」
「冒険に赴き、レベルを上げて、また新しい冒険に挑む。その過程は僕に大きな満足と――恐怖をもたらした。物語が終わってしまうことへの恐怖」
周囲の大人に対して反抗的な態度をとり、突っ張って斜に構える。そうした破壊的なエネルギーが湧き出る一方、大人になることへの不安は膨れ上がり破裂寸前。両極端なものを内面に秘めているのが、中学生なのだろう。
怖いもの知らずの彼らの冒険は無謀であり、そのときしかできないことをやり切る清々しさに満ちている。ある時代の物語が終わっても、また新しい物語の主人公になればいいと、本書は教えてくれる。
著者の浅原ナオトさんは、2016年に小説投稿サイト「カクヨム」で『彼女が好きなものはホモであって僕ではない』の投稿を開始。主人公は、同性愛者であることを隠している男子高校生。浅原さん自身「僕は男性でありながら男性を愛する人間、即ち、同性愛者です」と告白している。同作は18年に書籍化され、今年(2019年)NHKよるドラ「腐女子、うっかりゲイに告る。」としてドラマ化された。
本作は「カクヨム」に掲載された「御徒町カグヤナイツ」を加筆・修正したもの。
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