既婚者が「未婚」と偽り、不倫をする。好みでない相手に言い寄られた未婚者が「既婚」と偽り、断る。これらのケースは想定の範囲内だ。
そこにもう1つのケースを提示するのが、東村アキコさんの『偽装不倫』(文藝春秋)。主人公・鐘子(しょうこ)は、超イケメンを前に「既婚」と偽ってしまう。未婚者なのだから気兼ねなく恋愛できるのに。鐘子はなぜ嘘をつく?
主人公・鐘子は30歳。独身、実家暮らし、派遣社員。3年がんばっても結果が出ない婚活に疲れ、派遣契約終了のタイミングで韓国ひとり旅へ。
飛行機の離陸直前、隣席の韓国人の荷物が棚から落下し鐘子の頭部に直撃した。彼はモデルなみのスタイルと美貌の持ち主で、鐘子にたいそう優しく接した。彼の名はジョバンヒ、25歳、カメラマン。「私は絶望的にモテない」と自己評価の低い鐘子は、目の前に突然現れたイケメンに気が動転し、自分は「既婚者」と咄嗟に嘘をついてしまう。
ソウルに着き、たんこぶのお詫びにと、鐘子はジョバンヒに誘われ食事を共にする。その夜、ジョバンヒは鐘子に驚くべき提案をする。
ジョバンヒ「僕と不倫しましょうよ」
鐘子「キミ若いし...かっこいいし...何もわざわざ私みたいな...既婚者とそんなことしなくても...」
ジョバンヒ「あなたがきれいで可愛いからだよ」
ジョバンヒの真意ははかりかねるし、旅の間だけというタイムリミットもある。それでも鐘子は、自分が恋に落ちたと自覚する。「既婚者」と嘘をついた理由をこう分析する。
「深い意味はないの ただ単純に 私は怪しいヤツじゃありませんよって 私あなたに見とれてたけど 大丈夫こわがらないでって 私はあなたを好きにならないからって」
自分は恋に落ちたけど、正直に言えば嫌がられるかも、遊びのつもりかも......。予防線を張りつつ大胆な展開を迎えた鐘子の恋の行方が気になり、1巻から4巻まで一気読みした。数日間のはずだった鐘子とジョバンヒの関係は? イケメン夫を持つ鐘子の姉・葉子に裏の顔が? とても途中で手を止められない展開が待っている。
本作は、2017年12月にWEBマンガサービス「XOY(ジョイ)」でスタートした。サービス統合のため、18年11月より電子コミックサービス「LINEマンガ」で連載中。日本と韓国で同時連載、オールカラー長編という、東村さんにとって初めてづくしの作品だ。
縦スクロールという形式のWEBマンガを、コマ割り形式で単行本化。18年11月に1巻が刊行され、今年(2019年)6月時点で4巻まで刊行されている。5巻は今秋刊行予定。
7月10日には杏さん主演のドラマ「偽装不倫」がスタートする(日本テレビ系)。ドラマと原作で設定が異なり、鐘子の旅先はソウルから博多に、恋に落ちる相手は韓国人から日本人になるという。マンガでは、鐘子がピンチを迎える場面などで、鐘子の頭で生まれた「たんこぶのこぶたん」が出現し、関西弁で厳しく的確な助言をしてくれるが、映像化されるのか気になる。
著者の東村アキコさんは、1975年宮崎県生まれ。金沢美術工芸大学卒業。99年「ぶ~けデラックス」増刊にてデビュー。2010年に『海月姫』で講談社漫画賞、15年に自伝的作品『かくかくしかじか』でマンガ大賞を受賞。『東京タラレバ娘』、『ハイパーミディ 中島ハルコ』(原作:林真理子)、『雪花の虎』など多数の人気作を生み出している。
各巻の終わりにある「おまけ」も興味深い。基本的に本編と同じくハイテンションでコミカルに描かれるが、2巻の「おまけ」にはこんな心境が吐露されている。
「海賊サイトにやられるくらいなら自分から無料で配信しようとこの連載をやってはみたものの...WEBの世界は変化が速すぎて本当に大変です」
「私達漫画家は一体何の為に漫画を描いているのか、読んでもらうためなのか、じゃあお金はいらないのか」
「私が自分の居場所だと思っていた漫画界はこれからどうなっていくのでしょう」
作品を読む側は、紙の書籍以外に電子書籍や無料WEBマンガなど、選択肢が多様化している。一方の作品を創る側は、こうした現状に葛藤しながらも必死に描いている。東村さんの直筆のメッセージが、強く訴えている。
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