参議院選挙の公示が近づいてきた。「安倍一強」の政治状況が続くのか、注目される選挙になるだろう。ふだんあまり政治の本を読まない評者だが、タイトルが気になり手にしたのが本書『なぜリベラルは敗け続けるのか』(集英社インターナショナル発行、集英社発売)だ。
本の帯に「私は本書執筆で『友』を喪う覚悟を決めた」さらに、「『安倍一強』を許した野党の『罪』をえぐり出す!」とある。著者の岡田憲治さんは、1962年生まれの専修大学法学部教授。専攻は現代デモクラシー論。学校の教壇に「政治をする」ことはもちろん持ち込んでいないが、さまざまなメディアで政治的「提言」をし、実際の選挙にもコミットするなど、「ズブズブに」政治をしている、と自己紹介する。
その上で、2013年12月の「特定秘密保護法」成立、2014年7月の集団的自衛権に関する「解釈改憲」、2015年9月の安保法制の成立、2017年6月の「共謀罪法」(改正組織犯罪処罰法)、この他にも沖縄・辺野古の埋め立て問題、森友・加計学園問題とそれに伴う公文書偽造問題など、「これらの戦いにおいて、私は負け続けていきます」と書いている。
著者は自分がマイナーな立場であることは承知している。その上で、「まずいな」と思っているのは、「安倍一強」の情勢の下で、「民主主義が少しずつ殺されている」ことだという。そしてそれを許した最大の原因は、アンチ安倍政権派、リベラル派、野党陣営が「事実として選挙で自公連立政権を脅かすほどの議席を取れなかったことだと指摘する。
しかしながら、2017年の総選挙で、比例代表の自公の得票率は45%にすぎない。著者は野党の側が「ゲームのルールに合わせた上手な喧嘩」をしていないからだ、といい、要は「私たちが『子ども』だからだ」と説く。こうした問題意識から、章タイトルも独特の表現になっている。
第1章 なぜリベラルは「友だち」が増やせないのか 第2章 善悪二分法からは「政治」は生まれない 第3章 なぜ「支持政党なし」ではダメなのか 第4章 「議論のための議論」から卒業しよう 第5章 すべての政治は失敗する 第6章 「お説教」からは何も生まれない 第7章 「ゼニカネ」の話で政治をしたい 第8章 議員には議員の仕事がある、ということ 第9章 なぜ私たちは「協力」しあえないのか 第10章 現実に立ち向かうための「リアリズム」
第7章では、「ゼニカネ」を軽視する日本の左派を批判し、イギリス在住のライター・保育士、ブレイディみかこさんの次のような発言を紹介している。
「日本の左派には『結局は何でも金の話か』と経済を劣ったもののようにみなす傾向がある。反戦や人権や環境問題は左派が語るに足りる高尚なテーマなのに、経済はどこか汚れたサブジェクトでもあるかのように扱われてきた。左派はもっと意味のある人道的なことを語るべきで、金の問題は自民党がやること。みたいな偏見こそが、野党が政権を取っても経済を回せず短命に終わり、結局は与党がいつも同じという政治状況を作り出してきたのではないだろうか」(『THIS IS JAPAN 英国保育士が見た日本』、太田出版)
本欄でもブレイディさんの共著『そろそろ左派は<経済>を語ろう』(亜紀書房)を以前紹介した。積極的な金融緩和と公共投資を求める反緊縮運動の流れが欧州左派の主流だそうだ。評者は「これって『アベノミクスじゃん』。まさに日本では右派とみられている安倍政権の政策そのものであることが日本での事態をややこしくしている」と茶々を入れたのだが、アベノミクスと正面からマクロ経済のレベルで議論する姿勢が野党に求められている、ということだろう。
リベラル派ももっとリアリズムで政治をやろうよ、という主張はうなづける。野党共闘が手詰まりになっている最大の理由は、多くの論者が政党の「綱領」と「公約」の区別をあいまいにしたまま、「政策」という言葉を使ってきたからだという。そこから与党による「野合」批判が広まってしまった。
今度の参院選では、前回同様かなり多くの1人区で野党統一候補が擁立される見込みで、与野党ががっぷり対決する。そういう意味では、著者の主張を現実の政治状況が裏付けした形になる。「政治もする」政治学者としては、期待通りというところだろうが、著者の思いはもっと高いところにある。民主主義を守るために立場を超えて共有できるものを探す。その視野には敵対者や官僚も入っている。もちろん「清濁併せ飲め」と言っている訳ではない。思想をどう行動レベルで「血肉化」するのか、具体的な提案に満ちた熱い本だ。
著者にはほかに『権利としてのデモクラシー』(勁草書房)、『言葉が足りないとサルになる』(亜紀書房)などの著書があり、インターネット・ラジオ「路地裏政治学」(ラジオデイズ)に出演している。
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