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12歳の天才「ティー君」に声援を送りたい

  • 書名 天才と発達障害
  • 監修・編集・著者名岩波明 著
  • 出版社名文藝春秋
  • 出版年月日2019年4月19日
  • 定価本体820円+税
  • 判型・ページ数新書判・254ページ
  • ISBN9784166612123

 ゴッホは統合失調症だった、ゲーテは躁鬱だった――歴史上の偉人や有名人について、精神医学及び心理学的観点からあれこれ言われることがある。素人からすると、なるほどそうだったのか、というような目からウロコの分析が多い。本書『天才と発達障害』(文春新書)も、そうした視点からのアプローチだ。著者の岩波明さんは昭和大医学部精神医学講座主任教授。精神医学関係の多数の著書がある。

尋常ではない集中力

 帯には「芥川龍之介」「アインシュタイン」「南方熊楠」「モーツァルト」の顔写真が並んでいる。そして「『異脳』の人の精神病理の謎に迫る!」というキャッチコピーが付いている。つまりこれらの偉人たちも、精神医学者の目から見ると、何かと精神面で問題があったんだなということをうかがわせる。

 岩波さんは書いている――「真の天才とは優等生ではなく、不穏分子である」と。

 ・天才と呼ばれる人には大変な「突破力」がある。
 ・どこか尋常ではない、過剰な集中力を持っていることが多い。
 ・常人とはまるで異なるパワーで物事を成し遂げてしまう。

 そして、このような「異脳」の人たちにおいては、本人の能力がとびぬけて優れていることはもちろんであるが、彼らの持つ過剰な集中力が発達障害など何らかの精神的な特性と関連していることは珍しくない、と書いている。

 岩波さんは難関で有名な東大医学部の出身。ご本人も含めて「元・神童」だらけの世界にいたわけだ(残念ながら過去20数人の日本人ノーベル賞受賞者の中に東大医学部出身者はいない)。おそらく単なる「神童」と、「異脳」の人はちょっと違うということを自らの体験の中でも感じ取っていたに違いない。

モーツァルトもアインシュタインも

 こうした研究は、海外はもちろん日本でも昔から研究が行われている。一般向けの本では宮城音弥さんの岩波新書『天才』(1967年刊)が有名だ。その後も似たような本が続いて、偉人の精神病理を研究する「病跡学」(パトグラフィー)という専門用語も知られるようになった。美術の世界の「図像解釈学」(イコノロジー)とともに、関係者以外の人たちの間でも注目されてきた。

 本書もおそらく広い意味でそうした流れの中の一冊と思われる。特徴的なのは、近年研究が進む「発達障害(ADHD)」との関連に注目しながら検討していることだ。「第一章 独創と多動のADHD」、「第二章 『空気が読めない』ASDの天才たち」と続く。

 モーツァルトは、明らかに発達障害(ADHD:注意欠如多動性障害)の特徴があり、落ち着きない動作、「空気」を読まない所作などで周囲から嫌がられたが、創作に入ると「過剰な集中力」を示し、素晴らしい作品を瞬く間に書き上げたという。

 ASDは自閉症スペクトラムのことで、アインシュタインは、その症状を示していた。他者とのコミュニケーションに障害を抱え、言葉の発達も遅れていたが、飛び抜けた数理的洞察力によって、古典的物理学の常識を覆す理論を打ち立てたのだという。

 発達障害の患者のなかには、映像記憶(一度見たものは、写真を撮ったように丸暗記できる能力)、共感覚(数字を見ると脳内に音楽が流れる、音楽を聴くと匂いを感じるなど)、特異な計算能力(何万桁もの暗算を瞬時におこなうなど)といった天才も多いというのだ。

 従来の「病跡学」では前面に出てきた「うつ」や「統合失調症」との関連は、本書では第四、五章での記述となり、後方に退いている。

イントロはクイーン

 岩波さんは精神医学の筆者としては引っ張りだこなので、本書では多数の親しみのあるネタが紹介されている。イントロは、「クイーン」のフレディ・マーキュリー、第一章では、『窓ぎわのトットちゃん』やゲゲゲの鬼太郎など、第二章ではシャーロック・ホームズ、江戸川乱歩からヴィトゲンシュタイン、ダーウィンまで盛りだくさんだ。この辺りの硬軟織り交ぜた博覧強記ぶりとサービス精神が引っ張りだこの秘密なのだろう。

 歴史上の有名人の精神病理を、文献資料に基づいて分析するという方法には、素人でも想像できる弱点がある。医者が本人を問診していない。本当の診察が出来ていない。都合の良い資料に寄った、わかりやすすぎる解説に陥るリスクがある。

 そう思っていたら最近、朝日新聞の「ひと」欄に、「天才少年」のことが出ていた。タイでAIプログラミングの一日塾を始めた12歳の日本人少年「ティー君」(東京本社版では6月26日)。彼は日本では、「こだわりがつよく、集団生活になじめない発達障害の自閉症スペクトラム」と診断されていた。5年前に家族とタイに移り住み、我流でパソコン操作を覚えて、2017年には孫正義さんが設立した育英財団の奨学生に選ばれて勉強を続け、今ではAIについて教えているというからすごい。

 「ティー君」がこのまま順調に成長すれば、歴史に名を残すことになるかもしれない。「ティー君」に声援を送り、アインシュタインやモーツァルト並みの偉人になることを期待したいと思った。そうすれば本書のような分析の、生きた証になるかもしれない。

 関連で本欄では『太陽を創った少年』(早川書房)、『清々しき人々』(遊行社)、『古代文字入門』(河出書房新社)、『天才の思考 高畑勲と宮崎駿』(文春新書)、『江戸の科学者』(平凡社新書)、『世界を変えた50人の女性科学者たち』(創元社)、『維新と科学』(岩波新書)なども紹介している。

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