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コロナ禍で「音楽ビジネス」も大崩壊するのだろうか

音楽でメシが食えるか?

 CDが売れなくなって久しい。本書『音楽でメシが食えるか? 』(言視舎)はそうした状況を踏まえて、音楽業界は何をなすべきか、音楽ビジネスは成立するのか、ミュージシャンが生き残る道はあるかなどを探ったものだ。著者として富澤一誠、辻堂真理の二氏の名前が並んでいる。

「売れなくなった」原因を多角的に分析

 富澤氏は音楽評論家。1951年生まれ。東京大学中退。71年、音楽雑誌への投稿を機に音楽評論活動に専念。現在、レコード大賞審査委員、尚美ミュージックカレッジ専門学校客員教授、尚美学園大学副学長も務めている。この半世紀ほどの日本の音楽シーンについては最も詳しい一人だ。辻堂氏は1961年生まれ。ノンフィクション作家。映画助監督、映画業界紙記者を経て「そこが知りたい」「ザ・ワイド」「スッキリ」など、150本以上のテレビ番組に携わっている。

 本書は、富澤氏に辻堂氏がインタビューしてまとめたものだ。最終段階でコロナショックが飛び込んできた。全体は以下の構成。

 第1章 音楽危機のリアル(CDバブルはなぜ起きたか/カラオケ革命と出口戦略、ほか)
 第2章 プロデューサーとレコード会社の復権(ほんもののプロデューサーとは/ビートルズを売りまくった男、ほか)
 第3章 ほんもののヒット曲は生まれるか?(Jポップでも歌謡曲でも演歌でもない/マーケット開拓への意識喚起、ほか)
 第4章 音楽でメシが食えるか? (音楽の仕事には三つのポイントがある/若者に人気のライブ制作とイベント会社、ほか)
 第5章 最後にこれだけは言いたい (いまこそ音楽のパワーが求められている/音楽業界の構造的欠陥を是正するチャンス、ほか)

 国民的ヒットが出ない、CDが売れない、加えてコロナ禍・・・日本のポピュラー音楽の歴史を総括しつつ、「売れなくなった」原因を多角的に分析、ピンチをチャンスに変えていく方策を提案している。

音楽仲間が突然、髪を切り、就職活動を始めた

 富澤さんが評論活動を始めた1971年は、小柳ルミ子「わたしの城下町」、 加藤登紀子「知床旅情」、尾崎紀世彦「また逢う日まで」、五木ひろし「よこはま・たそがれ」などが大ヒットした。ザ・タイガースが解散してグループサウンズは消え、アイドル歌手の南沙織、天地真理らがデビューする。視聴者参加の歌手オーディション番組『スター誕生!』放送も始まった。海外からはシカゴ、ピンク・フロイド、レッド・ツェッペリンらの初の日本公演が相次ぐ。ジャニス・ジョプリンのアルバム「パール」、ジョン・レノンの「イマジン」もこの年に出た。翌年には井上陽水、よしだたくろうなどが活躍を始める。歌謡曲、ポップス、フォーク、ハードロックなどが絡み合い怒涛のようにうねり始めた時期だった。

 冒頭で富澤さんが語っている。それまで肩までの長髪だった音楽仲間が突然、髪を切り、就職活動を始めたので驚いたという。誰かの歌にそうした歌詞があったが、富澤さん自身がその渦中にいた。果たして自分は音楽評論という「好きなこと」をやりながらメシを食っていくことができるだろうか。

 東大を中退して音楽評論の道に進むと打ち明けた時、父親に言われた。「何をやっても一流になるには15年はかかる」「そのことを肝に銘じてお前が頑張るというのなら、もう何も言わない。自分の人生なんだから、自分の好きなようにやりなさい」。

 音楽を志す多くの若者は、この時の富澤さんと同じような心境だろう。

聞いたことがないような曲名が並ぶ

 その後の日本の音楽シーンは、さまざまな変遷を経て現在に至る。日本のオーディオレコード(CDやビデオ等)の売り上げは1998年に6075億円を記録したのをピークに急減し、2019年は2219億円にまで落ち込んだ。

 関連の数字がいろいろと挙げられている。19年の音楽配信売上は706億円。音楽はネットで聴くようになったと言われて久しいが、まだCD売上に遠く及ばない。というのは、一曲300円の配信でも半分はアマゾンやアップルなどの配信ショップに持っていかれるからだ。100万ダウンロードでもレコード会社の取り分は1000万円ちょっと。諸経費を引くと手元に残るのはわずかだ。さらにはユーチューブなどでの違法ダウンロードも横行している。ネットは無料という「常識」が音楽業界の首を締めている。

 音楽業界の側も、テレビドラマとのタイアップでミリオンセラーを生み出す、という魔法的手口に慣らされ、なかなか本当の意味での名曲づくりができていない。今やヒット曲のベストテンランキングなどを見ても、一部の人以外は、聞いたことがないような曲名が並んでいる。握手券とセットになったアイドルグループの曲が多い。

ライブは軒並み中止

 このほかの収入では、18年は音楽著作権料徴収額が1155億円。こちらは史上二番目の高額だサブスクリプションの好調などによる。同年のライブ・チケットの売上額は前年比103%で3448億円。これが音楽業界の主要収入源になっている。CDと音楽配信の合計売上額は2220億円なのでライブの6割強にとどまる。

 ところがそんな音楽ビジネスの現況をコロナが直撃した。ライブは軒並み中止や延期。ライブイベントの設営関係者も含めて、収入ゼロの状況が長期化している。握手会ができないから、CDの売り上げも落ちている。

 著作権に関して言うと、現行の著作権法では、教育機関における対面授業(学生と向かい合って行う授業)については必要と認められる限度において、著作物を無許諾、無償で利用できた。ところが、オンラインの授業はこの許容範囲を超える。とりあえず2020年は特例が認められたそうだが、今後はどうなるかわからない。コロナは音楽業界の意外なところにまで影響を及ぼしている。富澤さんは、コロナ禍を業界再生のためのチャンスにするように提言しているが、その道は険しそうだ。

 BOOKウォッチでは関連で、『音楽が聴けなくなる日 』(集英社新書)、『ライブカルチャーの教科書』(青弓社)、『蜜蜂と遠雷』(幻冬舎)、『鬼子の歌――偏愛音楽的日本近現代史』(講談社)、『イントロの法則80's――沢田研二から大滝詠一まで』(文藝春秋)、『おわらない音楽』(日本経済新聞出版社)なども紹介している。



 


  • 書名 音楽でメシが食えるか?
  • サブタイトル富澤一誠の根源的「音楽マーケティング論」
  • 監修・編集・著者名富澤一誠、辻堂 真理 著
  • 出版社名言視舎
  • 出版年月日2020年5月29日
  • 定価本体1500円+税
  • 判型・ページ数四六判・165ページ
  • ISBN9784865651805
 

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