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佐伯チズさんが最後に伝えたかった言葉

夢は薬 諦めは毒

 佐伯チズさんは、昨年(2019年)秋ごろから右足に違和感を覚え、日に日に自由に脚が動かせなくなっていた。今年(2020年)がはじまってすぐのころ、精密検査の結果ALS(筋萎縮性側索硬化症)の診断を受けた。3月にALSの発症を公表。そして6月5日、76歳で永眠。

 ALSは、手、足、呼吸器と運動神経系が少しずつ障害を受けて使えなくなっていく病。日本では約9000人がALSと闘っているというが、治療法は見つかっていない。難病に指定されている。

「ALSという病気は非常に進行が早いのが特徴だそうで、実際に私が思っているよりもはるかに早いスピードで進行しています」
 「これまで、一度も入院したこともなければ、病気らしい病気をしたことがなかった私が、です。まさに青天の霹靂でした」

 本書『夢は薬 諦めは毒』(TJMOOK)は、佐伯さんの逝去を受けて、お元気だったころに語られた言葉を急ごしらえでまとめたものではない。病と闘いながら活動を続けた佐伯さんが、最後に残したかったメッセージを33の言葉とともに綴ったものである。そもそも企画当初は、月刊誌「大人のおしゃれ手帖」でエッセイを連載し、最終的に本としてまとめる予定だった。しかし、症状の進行が速く、この度ムックとして刊行することになったという。

ゆっくりと余生を過ごすはずだった

 佐伯チズさんは、1943年生まれ。OLを経て、美容学校で学び、美容室勤務。67年ゲランに入社。結婚後、夫・佐伯有教氏の仕事による渡米を経て、88年パルファン・クリスチャン・ディオールに入社。2003年同社を定年退職後、エステティックサロン「サロン ドール マ・ボーテ」を開業。『美肌革命』(講談社)、『頼るな化粧品!』(講談社+α文庫)、『キレイの躾』(世界文化社)など、著書は累計500万部を超える。

 プロフィールからは華やかな美容業界の成功者と映るが、本書のはじめに「振り返れば、本当に波乱万丈の人生でした」とある。詳細は本書で読んでいただきたい。ここでは、佐伯さんの生涯を要約して紹介しよう。

 両親の愛情を受けにくい環境で、祖父母に育てられた。子どものころ、オードリー・ヘプバーンの美しさに衝撃を受けたことが、人生を大きく変えるきっかけに。関西の田舎から東京に出て美容の仕事をするために、必死になってできることはすべてやった。

 結婚はふって湧いたような出来事だったが、夫と巡り会えたことは「人生の最大のギフトの一つ」と振り返る。佐伯さんが41歳のとき、夫は52歳の若さで病死。「主人が他界したあとも彼に言えないような恥ずかしいことはしないでいようと、自分を律しながらここまで歩んでくることができました」。

 ゲラン、ディオールでの会社員時代は、美容の素晴らしさとともに化粧品業界の限界を感じた時期でもあったという。ディオールでは、美容部員のトレーナーの育成、フレグランスの売上などの困難、左遷同様の人事異動、会社との衝突も数えきれないほどあった、と内幕を書いている。「たくさんの辛いこともあった会社員時代でしたが、無事定年まで勤め上げることができたおかげで、第2の人生の花が開いたのだと思います」。

 個人のサロンで美容知識・技術をお客様に伝えながら、ゆっくりと余生を過ごす......。そんな暮らしをイメージしていたが、定年退職のタイミングで出した本をきっかけに、佐伯式美容が一気に世間に知れ渡ることに。「たくさんの人にキレイになってほしい」という想いが実現した喜びとともに、有名になり過ぎたための苦労も多かったという。

最後まで唱えていた言葉

 本書は4つのパートで構成されている。メインとなる「あなたに寄り添う佐伯チズ33の言葉」では、01から33までの「チズ格言」と、それにまつわるエピソードを紹介している。

 「全国各地のキレイの素を季節で楽しむ チズのお気に入りお取り寄せ暦」では、美食家の佐伯さんお気に入りのお取り寄せを紹介。ギフトとしてもおすすめしている。知る人ぞ知る一級品の果物、スイーツ、調味料、総菜など約40品を写真付きで掲載。

 そのほか、美のカリスマとして名を馳せることとなった「美容の極意は手にあり! 肌が喜ぶ佐伯式美肌メソッド」、「世界中の人をキレイにしたい」一心で歩んできた軌跡を年表で振り返る「佐伯チズヒストリー」がある。

 ここでは、33の言葉から「チズ格言01 夢は薬。諦めは毒」を紹介したい。夫を亡くし、失意のどん底で屍のように生きていたという佐伯さん。生きる力を目覚めさせたのは、ボロボロになった自身の顔だった。「これでは主人に顔向けできないわ」と、培った美容知識・技術を駆使し、肌はキレイになると信じて肌地獄と格闘し、3ヵ月で元の肌を取り戻した。「主人のために、キレイな肌にならなきゃ!」という夢があったからこそ、困難を乗り越えることができた、と書いている。

 「今の女性はとても自由よ。......でも、自由だからこその苦悩があるようにも見えるの。あふれ返る情報の波に流されて、『知っているつもり』『やっているつもり』で、実際は何もできていないという女性が多いと感じます。とことん向き合って、行動を起こさなければそれは諦めと同じよ。......自分の理想に近づくためには、まず夢を持ってね」

 編集者あとがきに「残念ながら、驚くほど病状は早く進行し、私たちが共に紡いでいこうと考えていた時間をどんどん奪っていきました」とある。タイトルの「夢は薬 諦めは毒」は、佐伯さんが最後のときまで口癖のように唱えていた言葉だという。

 「私も、今もう一度その言葉を思い起こして、病と向き合っていますから、みなさん一緒に頑張りましょうね」

 診断後、わずか数ヵ月で亡くなったことが信じがたい。本書は、佐伯さんの生命力がこもった一冊となっている。



 


  • 書名 夢は薬 諦めは毒
  • 監修・編集・著者名佐伯 チズ 著
  • 出版社名株式会社宝島社
  • 出版年月日2020年8月 9日
  • 定価本体1300円+税
  • 判型・ページ数A5判・192ページ
  • ISBN9784299005946

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