コロナ禍で多くの人が不安を抱えている。先行きが全く見えない。とりわけ大学生は大変なようだ。中でも女子学生が深刻に違いない。そう思って本書『女子学生はどう闘ってきたのか』(サイゾー)を手に取ってみた。男子学生よりも長年、困難な境遇を強いられ、その状況は今、いちだんと厳しくなっているのではないか、と思ったからだ。
結論から言えば、本書では特にコロナ禍に関する処方箋は示されていない。あくまで「過去」の闘いぶりを報告している。
著者の小林哲夫さんは1960年生まれ。教育ジャーナリスト。BOOKウォッチで紹介した『神童は大人になってどうなったか』(太田出版)など著書多数。本書は以下の構成になっている。
序章 世界中で女子学生は闘っている 第1章 2010年代後半、女子学生の怒り 第2章 女子学生怒りの源泉=「女子学生亡国論」の犯罪 第3章 女子学生、闘いの歴史―社会運動 第4章 女子学生の歴史1 第5章 女子学生の歴史2 第6章 女子学生の歴史3 第7章 女子学生の歴史4 第8章 ミスコンと読者モデル 華麗な舞台の実像と虚像 第9章 女子学生、就活での闘い 第10 章 女子学生が文化を創造する
序章では、最近の各国の動きが報告されている。高校生ながら気候問題で世界に大きな影響を与えたスウェーデンのグレタ・トゥーンベリさん、香港の民主化で抗議行動を呼びかけた香港浸会大学のアグネス・チョウ(周庭)さんなどが登場する。少し前では韓国の名門、梨花女子大で、当時の大統領の友人の娘が不正入学した疑いが浮上し、多数の女子学生が抗議行動に参加した。
このほか、フランスでは大学入試改革に反対するストライキが起こり、キャンパス封鎖。イギリスでもEU離脱に反対するデモに学生が加わり、米国では銃規制を求める高校生や大学生が「私たちの命のための行進」を提起した。これらには女子学生も目立ったという。
第1章では最近の日本の動きについて報告されている。以下のような項目が並んでいる。
・「ヤレる女子大学生」はひどすぎる―国際基督教大 ・ 医学部女子入学制限に反対する―筑波大など ・性暴力をなくしたい―東北大 ・温暖化対策を求める―立正大、神戸大、長崎大など ・高等教育無償化を求める―東京大など ・就活セクハラを撲滅せよ―慶應義塾大、国際基督教大など ・性的同意を求める啓発活動―上智大、創価大、早稲田大
「ヤレる女子大学生」は各メディアで取り上げられたので、覚えている人も多いのではないか。「週刊SPA!」が2018年12月25日号で「ヤレる女子大学生RANKING」という記事を掲載した。大学名は実名。この記事に衝撃を受けた国際基督教大の女子学生、山本和奈さんがSNSを活用して記事の撤回と謝罪、女性軽視や差別用語の使用をやめることを要求する署名を集め、編集長に非を認めさせた。
ネットでは抗議の声を上げた山本さんを誹謗中傷するコメントも少なくなかったが、「私は気にしません」。その後、大学を卒業した山本さんはチリに渡り、政情不安で揺れる同国の近況を伝えた。チリでも学生が抗議行動の中心になっているという。
国際基督教大学の同窓会は、「勇気ある行動は、それまで違和感を持ちながらも声に出せなかった多くの人を勇気づけた」「大学および同窓会の魅力度・知名度を高めることに貢献した」として、山本さんを表彰しているそうだ。
本書は、「社会運動に関わるテーマで、大学と学生がリスペクトしあうケースはめずらしい」と書いている。
さらに切実なのは「就活セクハラ」だ。2019年12月2日には厚労省内で有名大学の女子学生5人が記者会見し、厚労省や文科省に対策を取るように訴えた。彼女たちは就活セクハラなどに取り組む学生団体「SAY」のメンバーだ。
面接、OB訪問、インターンなどでハラスメントが横行していることはよく知られている。名門といわれる大企業の採用担当者でさえも、性暴力で捕まるケースが報道されている。
ほかにも、「医学部女子入学制限に反対する」「高等教育無償化を求める」など、いろいろと「闘っている」女子学生が少なくないことを、改めて知る。「性的同意」とは、たとえば、恋人のあいだでも同意がなければ性行為をしてはいけない、という考え方だ。
現在の大学キャンパスは、コロナ禍の影響で静まり返っている。2020年の8月5日の朝日新聞によると、講義の大半はオンライン。新入生は友人もつくれず、孤立しているという。一方で8月2日までにコロナ感染が確認された大学生・短大生は、文科省の調べによると、690人。うち532人が7月以降だという。
せっかく大学に入ったのに、ほとんど通信教育状態。これが、いつまで続くのか。経済への影響も深刻化しており、女子学生に人気が高かった航空、旅行、観光関連はもちろん、今後多数の企業で採用抑制の方針が打ち出されるのは確実だ。
過去の「闘い」から何かを学び、コロナ禍に生かせることができるのか。そのあたりは全く未知数だが、同じく困難な中で闘ってきた人たちを知ることは、何かの参考になるかもしれない。本書には戦後の女子学生の硬軟取り混ぜた歩みについて、膨大な情報が圧縮されているので「事典」としても貴重だ。たとえば60年安保闘争で6月16日に行われた国会前デモには、警察調べで、お茶の水女子大230人、日本女子大320人、津田塾大320人が参加したが、津田塾大では学生がバスをチャーターしていたとのこと。そのとき、大学側は学生デモ行進護衛を決議し、若い教員が一緒についていったという。
BOOKウォッチでは関連で、いくつか紹介している。『日本の天井――時代を変えた「第一号」の女たち』(株式会社KADOKAWA)は、日本の男女差別に風穴を開けてきた先駆者の物語。著者の石井妙子さんは近著『女帝 小池百合子』(文藝春秋)で知られる。『新版 大学生のこころのケア・ガイドブック』(金剛出版)はLGBTも含めた大学生の悩みに答える。このほか『ルポ東大女子』(幻冬舎新書)、『東大を出たあの子は幸せになったのか』(大和書房)なども紹介している。
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