数年前までは「定年」後をどう生きるかというテーマの本を書店でよく見かけた。評者は「定年本」と勝手に名付け、BOOKウォッチでも何冊か紹介した。だが、昨年あたりから少し潮目が変わったような気がする。
定年後も働くのは当たり前という前提で、50代からどう準備するかと意識が前倒しになっている本の刊行が目立つようになった。政府が65歳まで働けるよう法整備を進め、さらに70歳を視野に入れているから、働く者としては60歳になる前から対応しなければならないということだろう。
本書『50歳からの逆転キャリア戦略』(PHPビジネス新書)もそうした発想の本だ。副題が「『定年=リタイア』ではない時代の一番いい働き方、辞め方」とある。
著者の前川孝雄さんは、株式会社FeelWorks代表取締役で青山学院大学兼任講師。1966年生まれ。大阪府立大学と早稲田大学ビジネススクール卒。リクルートで「リクナビ」「就職ジャーナル」などの編集長を務めた後、2008年にFeelWorksを設立した。リクルートでは相当なやり手だったことがうかがえる。本書が30冊目の著書。
現在は、400社以上で「上司力研修」「50代からの働き方研修」などを手掛けるが、独立直後は、700通の挨拶状を送ったが反応ゼロで、仕事の依頼がなく途方に暮れたそうだ。
そうした経験を踏まえ、前川さんはこう説く。
「『辞めるな』ではなく『"まだ"辞めるな』」 「つまり、会社を辞める前に、あなたには今の会社でやっておくべきことがまだまだある」
それはこう考えるからだ。「定年=リタイア」ではない時代がやってきた。しがらみから解放され、やりたい仕事がある未来をつかもう。第二、第三の職業人生に向け、会社は「学びの宝庫だ」。自分の人生のハンドルを自分で握る「キャリア自律」をまず実現する。
本書の構成は以下の通り。第1章と第4章は参考になるので各項目も挙げておこう。
第1章 まだ辞めてはいけない人たち――もしいま早期退職したらどうなる? 1 やりたいことがない人――転職の条件が年収しか言えない人は危険 2 変化に対応できない人――自分の専門以外に関心を持とうとしない人は危険 3 根拠なく楽観する人――リサーチ不足の「なんとかなるさ」は危険 4 自分を客観視できない人――「上司が評価してくれないから辞める」は危険 5 経営の視点や知識に欠ける人――会社経営を甘く考えている人の独立・転職は危険 6 自分のことしか考えていない人――周囲に貢献する意識に欠けているミドルは危険 7 社名や肩書きにこだわる人――昭和・平成のプライドを捨てられないミドルは危険 第2章 「お金、肩書き」から「働きがい」へ――人生後半戦のキャリアの考え方 第3章 会社は「学び直しの機会」に溢れている!――辞める前にできることはまだまだある 第4章 50歳からの働き方を変える「7つの質問」――筆者・前川孝雄の七転八倒体験から人生後半戦の働き方を考える Q1 自分の人生があと1年だとしたら、何をやりたいですか? Q2 なぜ、その「やりたいこと」に挑戦しないのですか? Q3 やりたいことができない本当の理由は何ですか? Q4 名刺がなくても付き合える社外の知人は何人いますか? Q5 会社の外でも通用する「自分の強み」は何ですか? Q6 その強みを磨き、不動のものにするためには何が必要ですか? Q7 今のうちに何を始めますか?
第3章で、具体的に会社にいるうちに吸収すべきことを書いている。会社はいろいろなものの宝庫であることを52歳で早期退職した評者も辞めてからつくづく感じた。しかし、評者の場合、何の準備もせずに会社を辞めたが、まったく後悔したことはないし、今も何とか仕事をしている。それは、本書第1章の「まだ辞めてはいけない人たち」の7類型に当てはまらなかったからかもしれない。
本書には56歳でメーカー営業職から美容師になり成功した人など4人のキャリアについても紹介している。
また、人生後半戦の使命を考えるキャリアプランニングシート、今から20~30年働く未来シミュレーション年表、自分の強み・補強したい経験を知る越境取材シートが巻末に付いている。実際に記入すると、人生後半戦の参考になるだろう。
BOOKウォッチでは、関連で『還暦からの底力』(講談社現代新書)などを紹介済みだ。
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