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90 歳まで生きると「資産」はマイナスになる!

定年後のお金

 「定年後」について様々な本が出ている。中でも好調なのが楠木新さんのシリーズだ。累計で32万部を突破したという。本書『定年後のお金――貯めるだけの人、上手に使って楽しめる人 』(中公新書)はその最新刊。今回は「お金」にスポットを当て、高齢化社会の生き方をアドバイスしている。

40~50代の会社員を読者対象

 楠木さんは1954年生まれ。京都大学法学部卒業。生命保険会社に入社し、人事・労務関係を中心に、経営企画、支社長などを経験。2015年、定年退職。「働く意味」をテーマに取材・執筆・講演に取り組んでいる。楠木ライフ&キャリア研究所代表。18年より神戸松蔭女子学院大学教授。『人事部は見ている。』『サラリーマンは、二度会社を辞める。』『会社に使われる人 会社を使う人』『左遷論』『定年後』『定年準備』などの著書がある。

 本書はプロローグ「お金と幸せを一緒にするな」から始まり、「第1章 老後不安の正体」「第2章 財産増減一括表」「第3章 固定費を見直す」「第4章 老後不安と投資を切り離せ」「第5章 老後資金は収支で管理」「第6章 お金を有効に使う」という構成。

 全体として、一定レベル以上の企業に勤める40~50代の会社員を読者対象にしている感じだ。厚生年金に加えて企業年金、退職金なども考慮した話が多い。

 そうしたやや恵まれている会社員たちの老後はどうなのか。多少の貯蓄があっても利息はほとんどつかない。退職金や企業年金も昔に比べると目減りしている。厚生年金の支給額は今後さらに削減されるかもしれない。親の介護はもちろん、自分の医療費や介護費も必要になる。住んでいる家の改修費用なども見込まなくてはならない。

 楠木さんは60歳で定年退職した時に、証券会社で今後の財産シミュレーションをしてもらったことがある。年齢の経過に従って自分の財産がどう変化するか。驚いたことに90歳の時には財産がマイナスになることが分かった。

簡単に「第二の人生」は見つからない

 「定年後」についての多くの本が指摘するように、本書も、60歳を過ぎても何か仕事をすることを勧める。実際のところ、1000万円をかなり上手に運用しても年利3%がいいところ。税金を引かれると、年に24万円しか増えない。相場の変動などで胃が痛む思いもする。それよりは、上手な節約で毎月2万円の支出を減らすとか、ちょっとした仕事を見つけて収入を増やす方が賢いという。

 しかしながら、大企業の管理職をこなしたような人でもそう簡単に第二の人生が見つかるわけではない。ハローワークに登録したが、面接までたどり着けない元エリートが少なくないことも記されている。

 本書の第2章では「財産増減一括表」を作成しておくことが推奨されている。このあたりも一定以上のレベルの人たちを対象としていると思えるところだ。

 楠木さんは自分の人生を振り返り、昭和の時代は今から考えると右肩上がりの一次方程式の期間だったと語る。給与やボーナスは上がるのが当たり前。1988(昭和63)年には郵便局の定額貯金の金利は5%を超えていた。ところが90年代の半ば以降から歯車が狂いだして現在に至っている。一人一人が自分の努力で、自分の老後を再構築しなければならない。「定年後」を指南する本書などに引き合いが増えている理由だ。

現役でもトラブル発生

 本書ではいくつかのケーススタディが登場する。たとえば「資産価値2000万円」の3氏の比較。「マンションを保有するH氏」「すべて現金、銀行預金、郵便貯金だけで保有するI氏」「10社の株式と10種類の投資信託で保有するJ氏」。それぞれについての「財産増減一括表」が掲載されているので、心得のある人は参照するとよいだろう。

 あるいは貯蓄500万円を持つ45歳のサラリーマン3氏。「3000万円のマンションを購入して2500万円の住宅ローンを組む」「すべてを預貯金で保有する」「株式と投資信託に半額ずつ運用する」。どれが望ましいのか。

 人生は何があるかわからない。地震や台風、豪雨などの災害に見舞われるかもしれない。自分が病気になる、あるいは会社の経営がおかしくなってリストラされるかもしれない。これらは現役の途中でも起きうる。月収50万円の家計なら300万円から600万円ぐらいの現預金はふだんから手元に持つべきだとしている。

 ・お金の管理はシンプルに
 ・住宅の家賃と住宅ローンは単純比較できない
 ・投資にはトレーニングが必要

 これも類書に書かれていることではあるが、本書でも改めて強調されている。BOOKウォッチでは、『定年消滅時代をどう生きるか』(講談社現代新書)、『定年前後の「やってはいけない」』(青春新書)、『ビンボーでも楽しい定年後』(中公新書ラクレ)、『やってはいけない不動産投資』 (朝日新書)、『投資バカ――50歳を過ぎたら取ってはいけないお金のリスク』 (宝島社新書)、『なぜあの人は「老後のお金」に困らないのか?』(クロスメディア・パブリッシング)、『かんぽ崩壊』(朝日新書)など関連書を多数紹介している。

  • 書名 定年後のお金
  • サブタイトル貯めるだけの人、上手に使って楽しめる人
  • 監修・編集・著者名楠木新 著
  • 出版社名中央公論新社
  • 出版年月日2020年1月25日
  • 定価本体840円+税
  • 判型・ページ数新書判・224ページ
  • ISBN9784121025777
 

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