お金のことを語る評論家には「辛口」と「甘口」に分かれる。荻原博子さんは、よく知られているように「辛口」の人である。この場合の辛口とは何かというと、政府の経済運営に対して批判的で、金融機関のセールストークに対しても厳しい、ということだ。
というわけで、荻原さんは金融機関の主催するような「経済セミナー」には呼ばれないだろうし、テレビなどでも金融機関がスポンサーになるような番組からは敬遠されるようだ。しかしながら「庶民の味方」ぶりが明確なだけに、かなりのメディアでむしろ出番が多い。
本書『投資バカ――50歳を過ぎたら取ってはいけないお金のリスク』 (宝島社新書)はそうした荻原さんの年来の辛口主張を繰り返したものだ。言わんとするところがとりわけシンプルに整理されている。「投資をしない方がいい理由」として次の3つが挙げられている。
・「投資」は、世界経済が成長しているときにするもの。
・「投資」は、インフレになってから考えれば間に合う。
・金融機関の思うツボにはまる。
言われてみればその通りだ。かつて金利が高くて銀行や郵便局に預けていたら、思いがけない金額になって戻ってきた時代があった。冷静に考えれば世の中がインフレだった。今のような低金利の時代は、うまい話なんかあるはずがない。ところが人間の悲しい性で素人頭でいろいろ漁り、ついつい金融機関などの誘いに乗ってしまう。
ウマい話にはそれなりのリスクがある。これは荻原さんがこれまでもさんざん言っていることだ。BOOKウォッチでも『投資なんか、おやめなさい』『荻原博子のグレート老後』を紹介してきた。
最近話題になっている問題で言えば「スルガ銀行の不正融資」。不動産会社が家賃収入を約束しシェアハウス投資に会社員らを勧誘する。そこにスルガ銀行が融資する。預金通帳の偽造など、刑事事件に問われかねない不正が横行し、多くの行員が加担していた。そんな手口で高収益を実現していたスルガ銀行を、金融庁は「優等生」のごとくほめそやしていたという。銀行も金融庁も全く信用できない。逆に言えば、今の時代に投資で一儲けしようとするなら、こうしたリスクが待ち構えているという警告だろう。
とはいえ安心できるちょっとした投資があるのではないか。日頃よく耳にするものなら大丈夫ではないか。そう考える人のために、本書ではおなじみの投資などについても懇切丁寧に、「光と陰」の「陰」の部分について、ダメ押ししている。
・「NISA」も「iDeCo」も「おやめなさい」
・運用資産が減っていく「毎月分配型投資信託」
・あっという間に大損する「FX」
・コツコツ手数料を払う「純金積立」、などなど...
上記のような、荻原さんが「クズ投資」と呼ぶ様々な儲け話の中でも、「不動産投資」は「地獄の一丁目」。リスクが半端ではない。スルガ銀行のケースなどに触れながら、五つの理由を示して「おやめなさい」と断言する。このほか保険や住宅ローン、介護の問題など中高年のお金に関わる心配事を整理し、「50歳すぎてから」のお金の付き合い方を指南する。
そうした中で荻原さんの主張のポイントは「長く働けるスキルを、今日から身に付けよう」だ。70歳まで元気で働けるのが理想とする。ところが今のご時世、そんな仕事はなかなか見つからない。
そこで思い出すのが2018年9月4日に、日経新聞一面トップに出ていた安倍首相単独インタビュー。「『生涯現役』へ3年で改革」という見出しが掲げられていた。自民党総裁選で「公平報道」が要請されているさなかに、片方の候補者の大々的な記事、やや違和感を感じたが、とりあえず現職総理の考えをただすということなのだろう。大いに興味を持って読んでみたが、残念ながら、中身は判然としなかった。むしろ、「10パーセントへの消費増税は必ずやり遂げる」というところだけが目立った。つまり「負担増」だけは間違いなくやってくる。庶民としては本書などを読んで、きちんと自己防衛をしておくことがますます大事になりそうだ。
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