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本を愛した坪内祐三さんが「本の雑誌」に書いたすべての文章

本の雑誌の坪内祐三

 2020年1月に亡くなった評論家・坪内祐三さん。BOOKウォッチでは、亡くなられた直後に坪内さんの初の単著『ストリートワイズ』(晶文社、1997)を取り上げ、その後「ユリイカ」2020年5月臨時増刊号が、453ページにわたって、圧巻の「総特集 坪内祐三」を組んだことも紹介した。坪内さんが深くかかわった「本の雑誌」は4月号で、また長年コラム「文庫本を狙え!」を連載した「週刊文春」も4月23日号でそれぞれ詳しい特集を出した。

 人は棺桶に入ってから、その真価が問われるという謂いがあるが、近年坪内さんほど、厚く追悼された文人、物書きはいないだろう。

 そして坪内さんと最も深い関係があった本の雑誌社から決定版とも言える本が出た。「本の雑誌」に坪内さんが書いて、話して、投稿した原稿をすべて収録したのが本書『本の雑誌の坪内祐三』である。

 「本の雑誌」は、「さようなら、坪内祐三」と題し、坪内番編集者座談会、総勢37人の追悼のことばにツボちゃんに教わった店、さらに自宅と仕事場の本棚を8ページで公開するカラー口絵「本棚が見たい!特別編」まで、88ページの大特集を4月号で出しているが、本書は397ページにわたり、丸ごと同誌と坪内さんの関係を総ざらいしたものとして、大きな意味を持つ。

 坪内さんは、1958年東京都渋谷区生まれ。早稲田高校から早稲田大学第一文学部に進み、同大学院英文科の修士課程を修了。都市出版に入社、雑誌「東京人」の編集者となった。この頃、文化人類学者の山口昌男さんの知己を得た。山口さんを学長に「東京外骨語大学」なるものを結成、古書店主らと活動した。

39歳からの快進撃

 単著を出したのは、1997年、39歳と遅かったが、それから快進撃が始まる。妻で文芸ジャーナリストの佐久間文子さんが明かしているが、毎日、徒歩5分の仕事場に通い、原稿用紙にせっせと原稿を書いた。本書に、自宅と仕事場の本棚の写真が掲載されているが、「圧巻」とは、まさにこのことだろう。それぞれ数万冊の古書や新刊本、雑誌がジャンルごとにきちんと部屋を分けて几帳面に収納されている。それらを参照しながら、原稿用紙の升目を埋めたのだろう。

 新宿や銀座に出没し、酒を愛した坪内さんだが、毎朝、8時には起きて仕事をしていたというから、物書きとしては精勤な人だったことが分かる。

無名の新人のロングインタビュー

 本書はまだ単著を出す前の38歳の時点で行われた「坪内祐三ロング・インタビュー」で始まる。「彼はいま何を考えているのか、どういうふうに本を集めているのか、その資料探索方法から興味の中心まで、じっくり迫った6時間インタビュー」だ。

 まだほとんど無名だった坪内さんに目をつけ、長尺な記事を掲載した同誌の慧眼が光る。その後、坪内さんは、自ら同誌の「スタッフライター」と自称し、積極的に寄稿する。ざっと本書の目次を紹介すると、以下のようになる。

 ・特集 この10年でいちばん面白かった本 明治文化が一冊でわかる労作
 ・特集 昭和の文学が面白い! 突発番付編成委員会 昭和の雑文家番付をつくる!
 ・特集 太宰治は本当に人間失格なのか? 神保町チキンカツ対談 ダメ人間作家コンテスト!
 ・特集 知の巨人に挑む! 山口昌男先生のこと
 ・特集 夏休み日記スペシャル 『木佐木日記』が文庫化されなかったのはなぜか?
 ・特集 神保町で遊ぼう 三十五年、いや半世紀 神保町逍遙
 ・特集 本好きのための旅行ガイド 川崎長太郎、内田吐夢、小田原シングルライフ
 ・角川文庫のアメリカ文学が僕の大学だった
 ・特集 いま書評はどうなっておるのか! 今こそ新聞書評は重要だ
 ・特集 本の雑誌が作る夏の100冊! 「岩波文庫の百冊」を選べない
 ・国内文学セレクション 明治文学の古典名作20冊 「明治の文学」の『饗庭篁村』をアマゾンで買ってめでたしめでたし

理不尽なことに対して怒る人

 巻末の年譜が面白い。12歳でプロレス雑誌のバックナンバーを買うために古本屋通いを始めたこと、高校受験で第一志望、第二志望を落ちて早稲田高校に入ったこと、浪人時代、丸山眞男『日本の思想』(岩波新書)を受験勉強の一環として買い読了したこと、現役と一浪で東大を落ちて早稲田大学に入ったこと、9歳下の女性の同僚が解雇されたことに怒り、編集長の無計画性に直言し、雑誌「東京人」編集部を辞職したこと、「読売新聞」連載予定のコラムを書くが、失礼な電話応対に怒り、連載から降りることを決意したこと......。

 本書を通して読むと、理不尽なことに対して怒りっぽい人だったことが分かるが、「本の雑誌」に対してだけは、特別に寛容だったようだ。本を愛した人だったからなのか、同誌の持ついい意味でのアマチュアリズムが肌に合ったのか、『靖国』、『古くさいぞ私は』、『慶応三年生まれ 七人の旋毛曲り』、『新書百冊』、『人声天語』、『酒中日記』など四十数冊の単著と多くの共著を出して、去った氏の業績と人を知る上で、もっともふさわしい書と言えるだろう。

  

 

  • 書名 本の雑誌の坪内祐三
  • 監修・編集・著者名坪内祐三 著
  • 出版社名本の雑誌社
  • 出版年月日2020年6月25日
  • 定価本体2700円+税
  • 判型・ページ数A5判・397ページ
  • ISBN9784860114435
 

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