日曜菜園家にとって、カラスは最大の天敵である。トウモロコシや落花生など、カラス被害で栽培をあきらめた野菜も少なくない。したがって、「カラスはずる賢い......」というタイトルを見て、カラスを追い払うヒントが見つかるかもしれないと期待して飛びついた。『カラスはずる賢い、ハトは頭が悪い、サメは狂暴、イルカは温厚って――本当か?』(山と溪谷社)。著者の松原始さんは京都大学の学生時代にカラス観察から動物行動学の分野に入り、ニホンザルやウグイスなど、幅広い動物の行動と進化の研究をしている東京大学総合研究博物館の特任准教授だ。
結論からいうと、「カラスを追っ払う妙手を得る」という目的は果たせなかった。そもそも、著者はカラス愛に満ちており、カラスはその外見から、実態以上に怖がられ嫌われていると考えている人なのだから、こちらの実用的な望みとは違いすぎた。
カラスについては、当てが外れたが、動物についての面白い話は盛りだくさんだ。まずゴキブリの話。身の回りの不快昆虫といえばダニ、蚊、ゴキブリがまずあげられよう。ダニ、蚊は噛みつかれたり刺されたりすると単にかゆいだけではなく、重症熱性血小板減少症候群や日本脳炎やデング熱などの病気になるリスクがあるのだから嫌われて当然だが、ゴキブリは、基本、噛みつくわけでもないし、何かの病原体を運んでいるわけでもない。嫌われぶりは不当といえる。それどころか、「最近の研究によるとゴキブリは非常に強力な抗体を持ち、いわば抗菌仕様のボディである」という。もちろん、ゴキブリの体表についている菌はあるわけだが、それまでもちだすなら、「他人と握手なんか、絶対できない」はずだと断言する。
アリの話も身につまされた。アリの2割はよく働いているが、6割はそこそこの働きしかしておらず、残りの2割は働いていない。働かないアリを除去しても、それぞれの割合は変わらないという「働きアリの法則」は、すでによく知られている。
面白かったのは、働く場所である。著者が学生時代の実習で調べた結果によると、アリの日齢と働く場所がくっきり分かれていた。若いアリは内勤で、巣の奥にある卵や幼虫の世話する係を務める。少し年上になると内勤ではあるが、外に近い場所に異動となる。そして、巣の外での餌集めといった外勤職場は一番日齢が上のアリたちが働いていた。
外勤は内勤より危険が多く、死にやすい。「老い先短い奴を行かせたほうが惜しくない」という冷徹な職場配置だった。「このブラックぶり......モーレツ社員を働きアリに例えるのは決して間違いではない」と著者はいう。
勤勉なアリとは真逆な動物もいる。南米にいるナマケモノだ。ナマケモノには「ミツユビ......」と「フタユビ......」の2種がいるが、ミツユビの不動ぶりがすごい。湿気の多い密林であまりにも動かないので、体毛にコケが生える。そのコケの緑色が保護色になるだけではなく、コケを自分の食の足しにもしていることがあきらかになったのである。
このコケを好きなガがいる。そのガの糞はコケの肥料になる。話はまだ続く。そのガは、ミツユビが排出した糞に産卵し、羽化するとまたミツユビのコケのところにやってくる......という共生関係ができていることが判明しているのだという。ナマケモノもここまでくれば仙人級といっていいだろう。
最後に実用的な話も紹介しておこう。アフリカで一番ヤバい動物はライオンでもゾウでもなくカバだということもけっこう知られている。カバに襲われて死ぬ人は年間500人に達するという報道もあるという。特に危ないのは子連れの母カバで、夜間、上陸して草を食べ、川に戻ろうとしているとき、その行く手を阻むような位置にいるときが本当に危険なのだとか。アフリカ旅行する場合には覚えておかなければならない情報だ。
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