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カラスが仲間を識別できる意外な理由

虫や鳥が見ている世界

 アブラナ畑を舞うモンシロチョウ。チョウ自身の目に映る仲間の姿はやはり白色なのだろうか。答えはノーだ。モンシロチョウには紫外線が見えるからだ。

 本書『虫や鳥が見ている世界』(中公新書)は、動物や植物が紫外線の下でどう見えているのかを写真付きで紹介している。紫外線が見える世界、それはむき出しの適者生存の世界だ。

紫外線だけに反応するカメラで撮影

 著者の浅間茂さんは千葉生態系研究所所長を務める。生物学者で高校の元生物教師。山形大理学部を卒業して企業に就職した後、生物学への関心が高じて教師に転じた経歴を持つ。 千葉県在住で付近の鳥や植物の保護を目的とするビオトープ(生物生息空間)の設置を推進中だ。

 浅間さんが使用するのは紫外線だけに反応するカメラだ。一般的なカメラのレンズは紫外線を吸収する。このため、紫外線を通す蛍石や石英製のガラスで作ったレンズに紫外線だけを通すフィルターが使われた。とても高価だ。紫外線の色は人間には分からない。実際の色が分からないので、本書では写真の色を波長が紫外線にほぼ隣接する青に統一。青のモノクローム写真のように表現した。

 モンシロチョウは最もポピュラーなチョウだ。シロチョウ科に分類される。同科にはモンシロチョウが属するシロチョウ亜科やキチョウがいるモンキチョウ亜科など4亜科がある。余談だが、「モンキチョウ」と一般に呼ばれるキチョウは2005年に本州と西南諸島に棲むキタキチョウと西南諸島だけに棲むキチョウの2種に分けられた。

 いよいよモンシロチョウの紫外線写真だ。人間の目に白く見える部分の色が雌雄で異なる。オスの翅は紫外線を吸収するが、メスは反射している。オスの白いところに紫外線色はなく、メスでは紫外線色に染まっているわけだ。

動物の多くが紫外線色を見分けている

 ではチョウの目にはどう見えているのか。紫外線色のほかに、昆虫は一般に赤が見えず、見える光は短波長側にずれているとされる条件が加わる。このため、(評者の推測だが他の可視光と合わせて)オスは白っぽく、メスは青紫っぽく見えているに違いない。

 紫外線撮影すると、チョウの驚くべき生態も歴然となる。浅間さんによると、アブラナ花畑で写っているのはほとんどがオスなのだそうだ。メスは1度交尾をするとオスを避ける。オスはいち早く交尾するために葉の周辺をうろついてメスの羽化を待っているというわけだ。

 動植物の色は、メラニンやカロチノイドなど色素によるものと、羽などの微細な構造による光の反射や干渉で生じるものの2種に分かれるのだそうだ。後者は「構造色」と呼ばれ、色褪せがない。カラスも背中から肩にかけて紫外線に反応する構造色を持っていて、カラスは個体の識別に使っていることも紹介されている。鳥の90%は紫外線色が雌雄で異なっているそうだ。

 動物の多くが紫外線色を見分けていることが分かってきたのは1970年ごろからだ。まだ半世紀しか経っていない。生物の本当の生態が分かるのも、これからなのかもしれない。

 浅間さんには『フィールドガイド ボルネオ野生動物』(ブルーバックス)、『水辺の生きもの』(全国農村教育協会、共著)、『ボルネオ島 キナバル山の鳥』(文一総合出版、共著)、『手賀沼の生態学2016』(たけしま出版、共著)などがある。

BOOKウォッチ編集部 森永流)

  • 書名 虫や鳥が見ている世界
  • サブタイトル紫外線写真が明かす生存戦略
  • 監修・編集・著者名浅間茂 著
  • 出版社名中央公論新社
  • 出版年月日2019年4月25日
  • 定価本体1000円+税
  • 判型・ページ数新書判・192ページ
  • ISBN9784121025395
 

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