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柚月裕子ミステリー、検事のニューヒーロー6年ぶりに登場

検事の信義

 いまエンターテインメント小説の書き手として最も注目されている作家の一人が柚月裕子さんだ。2016年、日本推理作家協会賞を受賞したバイオレンス小説『孤狼の血』(株式会社KADOKAWA)は映画化もされヒット、将棋界を舞台にした『盤上の向日葵』(中央公論新社)は2018年、「本屋大賞」2位に輝いた。

 先日、NHKの東日本大震災をふりかえる番組にも出演し、岩手県沿岸部のふるさとが津波で大きな被害を受けたことを話していた。

正統派のリーガル・ミステリー

 そんな柚月さんに正統派のリーガル・ミステリーのシリーズがあることを本書『検事の信義』(株式会社KADOKAWA)を読み、初めて知った。累計40万部突破の「佐方貞人」シリーズだ。

 シリーズ4作目の本書は「裁きを望む」「恨みを刻む」「正義を質す」「信義を守る」の4篇からなる。これらのタイトルに主人公の検事・佐方貞人の人物像が浮かび上がる。

 「裁きを望む」は、ある住居侵入および窃盗の容疑で逮捕・起訴された若い男の論告求刑公判で、佐方が「無罪」を論告するという異例の場面で始まる。

 無罪論告はきわめて珍しい。全国の裁判所で年に1、2例あるかないかだ。被告人はある資産家の家に侵入し、高価な腕時計を盗んだとして起訴されていた。しかし、証拠調べが不十分で、また被告人が被害者の非嫡出子であることがわかり、スキャンダルな展開となっていた。

 腕時計は事件の前に被害者から被告人に手渡されていた。警察に逮捕されたときに、そう証言すれば起訴されることはなかったと思われた。まるで起訴されることを望んでいたような被告人の思惑とは何か。このあと、遺産相続をめぐる「トリック」や地方検察庁内部での人間関係が絡み、佐方は厳しい判断を迫られる。

「罪はまっとうに裁かれなければならない」

 そのとき、佐方が考えたのは「罪はまっとうに裁かれなければならない」という当たり前のことだった。ところが被告人は別のことを考えていた。種明かしになるので、詳しく書けないが、佐方はある奇手に出る。このあたりは著者がとくに知恵を絞ったにちがいない。

 弁護士や裁判官に比べて、検事には感情移入しにくいという人が多いだろう。かつて検事を主人公にしたリーガル・ミステリーがなかった訳ではないが、柚月さんは新たなヒーローの造形に成功したようだ。シリーズ前作から6年。「6年ぶりの佐方は手強かったです」と語っている。  

  • 書名 検事の信義
  • 監修・編集・著者名柚月裕子 著
  • 出版社名株式会社KADOKAWA
  • 出版年月日2019年4月20日
  • 定価本体1500円+税
  • 判型・ページ数四六判・253ページ
  • ISBN9784041066577
 

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