読むべき本、見逃していない?

講義の終わりにサンゴやナマコの歌をうたった生物学教授がいた

ウニはすごい バッタもすごい

 「ゾウもネズミもネコも、心臓は20億回打って止まる」。一生の間に心臓が打つ総数や体重あたりの総エネルギー使用量は、動物のサイズによらず同じということを生物学者の本川達雄さんが説いた『ゾウの時間 ネズミの時間――サイズの生物学』は、1992年に出版され、科学読み物の大ベストセラーになった。その動物のよって立つ論理を人間に理解可能なものにする新しい生物学入門書として歓迎された。

 その本川さんがいきものの体のつくりに注目したのが、本書『ウニはすごい バッタもすごい――デザインの生物学』(中公新書)である。進化の過程で姿を変え、武器を身に着けたいきものたちの、巧みな生存戦略に迫っている。

 本川さんは1948年生まれ。東京大学理学部生物学科(動物学)卒業。琉球大学助教授などを経て東京工業大学大学院生命理工学研究科教授を歴任、東京工業大学名誉教授。理学博士。他の著書に『生物学的文明論』(新潮新書)、『人間にとって寿命とはなにか』(角川新書)などがある。

動物の「褒め歌」

 かなりユニークな先生だったようだ。東工大での講義の終わりには、その回取り上げた動物の「褒め歌」をうたったという。こんな調子。

 「  サンゴのタンゴ
  海のオアシス サンゴ礁
  貧栄養の 大海の
  中にひろがる 楽園は
  多様な命の 育つ場所
    (中略)
  藻からもらった食べもので
  つくったサンゴの粘液は
  めぐりめぐって育ててく
  多様ないきもの 育ててく
    (後略)      」

 各章に歌が載っており、巻末には7曲、楽譜もついている。

無脊椎動物を中心に紹介

 動物というと人類の仲間である脊椎動物に目がいきがちになるが、本書ではおもに無脊椎動物を紹介している。動物の種の数はおよそ130万。脊椎動物は約6万種だから全体の5%にすぎない。大半の動物は無脊椎動物なのだ。

 動物は大まかなグループごとに34の門に分けられる。本書では代表的な5つの門、すなわち刺胞動物門、節足動物門、軟体動物門、棘皮動物門、脊索動物門を取り上げている。構成は以下の通り。

 第1章 サンゴ礁と共生の世界――刺胞動物門
 第2章 昆虫大成功の秘密――節足動物門
 第3章 貝はなぜラセンなのか――軟体動物門
 第4章 ヒトデはなぜ星形か――棘皮動物門Ⅰ
 第5章 ナマコ天国――棘皮動物門Ⅱ
 第6章 ホヤと群体生活――脊索動物門Ⅰ
 第7章 四肢動物と陸上の生活――脊椎動物亜門

高機能な昆虫の骨格

 中でも第2章の昆虫にかんして5項目を割いて詳しく紹介している。全動物の7割以上が昆虫で、ダントツの繁栄と成功を誇っている。

 特筆すべきは有機物でできている昆虫の骨格だという。クチクラ、英語で言えばキューティクルでできている。多糖類やタンパク質という複雑な分子からなり、高機能だ。だから細くても折れず、軽い。薄くて広い羽をつくって飛ぶこともできる。大きな運動能力を獲得したのが繁栄の要因だ。

 クチクラはベニヤ板のように角度をずらしながら薄い層を何枚も貼り合わせてつくっているので、壊れにくく、物理的に良いバリアになるという。

 タイトルになっているバッタ。体長の5倍まで跳ね上がり、20倍前方に着地する。その跳躍力をゴムのパチンコにたとえている。おもに脚の関節部のクチクラを筋肉でゆっくりと引っ張って変形させてこれに弾性エネルギーを蓄えるのだ。

ヒトデはなぜ星形か?

 「デザインの生物学」という副題に関連して興味深いのは、ヒトデなど棘皮動物が五放射相称の星形であることを説明したくだりだ。いくつか本川さんが考えた仮説がある。一つは「滑走路仮説」。自分が動かず、相手(環境、具体的には水・飛行機・昆虫)が動くものでは、奇数の方がより多くのものと付き合えて良いという考え方だ。奇数の中でも5がもっとも良い。棘皮動物から滑走路、花へと普遍化できるそうだ。もう一つは「サッカーボール仮説」。棘皮動物は骨製のタイルを敷き詰めて体の表面を覆って守っている。正五角形の骨片をまずつくり、その5つの辺に正五角形に近い骨片を貼り足して体を覆っていくから棘皮動物は五放射になるという説明だ。

 ヒトデはゆっくりしか動かない。防御、餌の獲得でも放射相称の形がいいという。ロボット掃除機(大多数は円盤形つまり放射相称)と同じ原理だと説明している。

 最後の章がヒトを含む四肢動物だ。水中から陸上に上がり姿勢維持や歩行など、さまざまな困難があった。本川さんは「四肢動物は体の大きさを武器に陸上で戦ってきたと言えるかもしれない」と書いている。人間が大きな脳を持てるのも体が大きければこそだ。

 「陸で成功した二大動物群の一方である昆虫は小さなサイズで成功し、もう一方の四肢動物は大きなサイズで成功したのだった」

 しかしながら、どの動物(無脊椎動物がほとんどだが)に対しても深い愛情が感じられ、「褒め歌」をうたいたくなる本川さんの気持ちも伝わってくる。

 BOOKウォッチでは、生物学関連で『池上彰が聞いてわかった 生命のしくみ 東工大で生命科学を学ぶ』(朝日文庫)、『残酷な進化論』(NHK出版新書)、『生命の歴史は繰り返すのか?』(化学同人)、『虫や鳥が見ている世界』(中公新書)などを紹介済みだ。



 
  • 書名 ウニはすごい バッタもすごい
  • サブタイトルデザインの生物学
  • 監修・編集・著者名本川達雄 著
  • 出版社名中央公論新社
  • 出版年月日2017年2月25日
  • 定価本体840円+税
  • 判型・ページ数新書判・321ページ
  • ISBN9784121024190

オンライン書店で詳しく見る(購入もできます)

デイリーBOOKウォッチの一覧

一覧をみる

アクセスランキング

DAILY
WEEKLY
もっと見る

当サイトご覧の皆様!

おすすめの本を教えてください。
本のリクエスト承ります!

出版社の皆様!

御社の書籍も、
BOOKウォッチに
掲載してみませんか?