知らないところでブームが起き、気づいたころにはだいぶ広まっていた......ということはよくある。「一介のオタク」と称し、その元気で楽しそうな姿が評判を呼んでいる「つづ井さん」をご存知だろうか。
つづ井さんのコミックエッセイ『腐女子のつづ井さん』シリーズ(株式会社KADOKAWA)、「第20回文化庁メディア芸術祭」漫画部門審査委員会推薦作品に選ばれた『まるごと 腐女子のつづ井さん』(文春文庫)、「第3回マンガ新聞大賞」大賞を受賞し『このマンガがすごい! 2020オンナ編』Best10にランクインした『裸一貫! つづ井さん1』(文藝春秋)など、著書の累計は50万部を突破。
このたび、最新刊となる本書『裸一貫! つづ井さん2』(文藝春秋)が刊行された。「友情×想像力×推し=生きてるだけでめちゃくちゃハッピー!」「想像力で毎日を二〇〇%楽しんで生きる、女子たちの日常コミックエッセイ!」のキャッチコピーがついている。文藝春秋のサイトでは、本書発売記念のプロモーションビデオを見ることができる。また、「スッキリ」(日本テレビ系)や日経新聞など多数のメディアで紹介されている......。評者はつづ井さんの人気ぶりを知らなかったが、世間の注目度の高さがわかる。
本書は、つづ井さんと愉快な仲間たちを描いた友情絵日記であり、「CREA WEBコミックエッセイルーム」2019年10月~2020年6月の連載に描きおろしを加え、再編集したもの。
個性豊かな5人が、やや支離滅裂な会話をしたり突飛な行動に出たりする。その様子をほどよく力の抜けた文章とイラストで描いている。5人の共通点は「凝り性な成人女性」。登場人物の紹介文を抜粋すると、以下のとおり。
■つづ井 えっ?! 生きるの・・・・楽しい~!!
■Mちゃん 情熱に知性が追いつかないことも多いが、ことスケベな話になると語彙が信じられないほど豊かになる。BLが大好き。
■オカザキさん 一見控えめでで穏やかな女性だが、時に友人たちも度肝を抜かれるような大胆な言動がみられることがある。現在の推しはジャニーズアイドル。
■ゾフ田 つづ井と幼なじみで、気付いたら生まれてこの方だいたいずっと一緒。現在の推しは女性アイドル。
■橘 友人の顔写真がデザインされたTシャツなどのオリジナルグッズを軽率に作ってくる。
つづ井さんのインタビュー記事(「好書好日」2019年11月26日)によると、全員実在するようだ。「5人とも社会人でみんなで集まれることがめったにないので......やりたいことは全部やろうっていつも言ってますね」「見た目の造形はみんな全然違うんですけど」「割とみんなで集まってしゃべってるままなんですよ」と語っている。
本書は「第1章 びっくり! つづ井さん」「第2章 もっと推させて! つづ井さん」「第3章 カオス! つづ井さん」「第4章 おめでとう! Mちゃん」の構成。5人のベースには凝り性、つまりオタクな性質がある。そのため、収録されている約20話は「オタク」「推し」「想像」関連のものが多い。
つづ井さんの独特な世界観は、イラスト、言葉選び、コマ割り、エピソードが一体となって出来上がっているため、ここで説明しきることはむずかしい。その中から、比較的面白さが伝わりやすいと思われる話「化学反応(ケミストリー)」を紹介しよう。
つづ井さんはお酒好き。「誰しも酔っ払うと思いもよらないことをしでかすもの」で、つづ井さんの場合、勢いでネットショッピングをする。しかし一番困るのは、なぜか切るつもりのなかった前髪をたびたび切ってしまうこと。夜にジョキジョキ切る。翌朝、鏡を見て「どうするんこれ...」と途方に暮れるのだった。
まだ仲良くなりたてのMちゃんがつづ井さん宅へ泊まりに来たときのこと。2人で飲んでいるうちに「ええ気分」になり、「あ~~~ん前髪切りたい!!」「ねぇMちゃん切ってくれん? 適当でいいから」とつづ井さん。すると、Mちゃんは「いいよ~~!!」と快諾。あまりの即答ぶりにMちゃんはてっきり腕に自信があるのかと期待したが、とんでもない前髪に。
「酔ったら髪切りたくなる私と なんでも快諾するMちゃんで 最悪の化学反応 生じてしまっとるやん...」
これふつうだったら誰か止めない? 冗談で思いついたとしても、ふつう実行に移さなくない? など、多くの人が「ふつう」と思っているであろうラインを彼女たちは思い切り飛び越える。読んでいる側も楽しくなり、そんなノリや連帯感が羨ましく感じられる。
昨年(2019年)9月、つづ井さんはnoteに「『裸一貫!つづ井さん』についてちょっと真面目に話させてくんちぇ〜」というタイトルで長文を掲載した。それは「自分の日常生活を絵日記にし、沢山の方の目に触れるインターネットに放つ上で、『未婚で』『パートナーがおらず』『恋愛経験が極端に少ない』『女性』であることに関して自虐をするのは、もうやめようか令和」と思った話だった。
つづ井さんは社会人になってから、そうしたステータスを揶揄されることが多々あったという。そこで、人から言われてショックを受ける前に「先回りして自虐する」ことを始めた。その状態が数年続いたころ、つづ井さんは円形脱毛症になった。「私が怠けて、思考停止して戦わず、思ってもいないのに『自分ヤバ笑笑』の人でいたことによって、私は『そういう扱いをしていい人』になりにいっていたな...」と「大反省」したという。
つづ井さんの絵日記は「アラサー」「オタク」「おひとりさま」などの謳い文句で紹介されることが多いという。「これらはまだまだマイナスなイメージとともに語られやすい言葉ですが」とした上で、こう書いている。
「そこにカテゴライズされた私が『生きるの楽しいよ〜!』と言い続けることが大切なんだろうなあと最近は思います。そして、いつかカテゴライズされることすらなくなっていけばいいなあと思います」
「『ただ生きてて楽しい』という正直な今の現状を、変に謙遜せずそのまま絵日記にしたい」――。つづ井さんの「文字通り裸一貫の日常そのもの」が多くの人を惹きつけるのだろう。
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