メディアで働く人間を主人公にしたエンターテインメント小説の書き手である、本城雅人さんの新作『オールドタイムズ』(講談社)が出た。テーマは「フェイクニュース」だ。
本城さんは1965年生まれ。産経新聞入社後、産経新聞浦和総局を経て、その後サンケイスポーツで記者として活躍。退職後、2009年、『ノーバディノウズ』が第16回松本清張賞候補となり、デビュー。『傍流の記者』が第159回直木賞候補となった。
2017年、『ミッドナイト・ジャーナル』で第38回吉川英治文学新人賞を受賞、テレビドラマ化もされた。
本書の主人公、不動優作はタブロイド紙「東亜イブニング」の記者。早期優遇退職の面談を断り続けていたが、同期の大八木がネットニュースの会社をつくると聞き、これに賛同して新聞社を辞める。
社名とプラットフォームの総称が、タイトルになっている「オールドタイムズ」だ。優作が提案した名前だ。
「俺たちはいくら背伸びしようがオールドメディアと言われる新聞出身だ。古き良きものを受け継ぎ、ネットが不得手な中年男向けのネットニュース社を作るなら、最高の名前じゃないか」
新聞社出身の3人のほか、オンライン専門の旅行会社から転職してきた女性や元週刊誌記者、テレビ制作会社出身の合計6人の陣容だ。スポンサーである会長は28歳のIT企業の経営者だ。PVが伸びないことにしびれをきらした会長はこう指示する。
「我々が週刊誌や新聞のようなボリューミーなニュースサイトを作っても敵いません。記事を粗製乱造するのではなく、一週間で一本でいいので、一週間バズり続けるニュースを報じてください」
そしてニュースはすべて動画のみとなった。ネットの素人集団がイチかバチかで挑む、起死回生の一手は「フェイクニュース」の暴露だ。
スクープの結果、1カ月余りでネット上では知らない人がいないのではと思うほど、有名になる。「オールドタイムズはネットに拡散するフェイクニュースを暴くための新しいウェブメディア」という声も聞かれるようになった。
これらの取材の顛末やネットでの評判が見どころだ。新聞とは違うネットメディアの特性にも慣れてきた優作たちだったが、ある記事をめぐり炎上する。
「フェイクニュース暴露サイト、正義の味方気取りのオールドタイムズがフェイクニュースで自爆!」 「次々疑惑発覚! 拡散希望! オールドタイムズの過去記事にも写真盗用疑惑」
いったい何があったのか。そしてある新聞社のデジタル戦略に優作たちは翻弄されることになる。
新聞社にいた著者らしく、いかにもと言った記者が大勢出てくる。実際のところ、ネットメディアにも新聞出身者は少なくない。いま、大手紙はリストラをさらに進めようとしている。評者の周辺でも、最近ネットメディアに移った知人を見かける。
新聞では「読者」という抽象的な存在だったが、ネットではどんな属性のユーザーがどの記事にどれくらい反応したかが一目瞭然なので、PVを増やすため、オールドメディア以上にユーザーを意識せざるを得ない。
本書で繰り広げられる悲喜劇も他人事ではないというのが評者の実感だ。実際この数年で「フェイクニュース」の疑惑が持たれ、消えていったサイトもある。
一方、本書で冒頭出てくるネタは、あるテレビ番組が舞台だ。そのモデルとされた番組は、いまヤラセ疑惑が浮上している。こうなると、フィクションが現実を先取りしているような気分になる。虚々実々。それこそ本城さんが得意とするところだ。
BOOKウォッチでは、本城さんの直木賞候補作『傍流の記者』(新潮社)、スポーツ紙を舞台にした『時代』(講談社)のほか、メディア関連で『ディープフェイクと闘う――「スロージャーナリズム」の時代』(朝日新聞出版)、『暴走するネット広告――1兆8000億円市場の落とし穴』(NHK出版新書)などを紹介済みだ。
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