先日、本城雅人さんの前著『傍流の記者』を本欄で紹介し、「新聞記者が主人公になる小説が広く受け入れられる時代はそろそろ終わるのかもしれない」と書いたばかりだが、本城さんの新作『時代』(講談社)もまた新聞記者たちが主人公の物語だ。しかし、今回の舞台はスポーツ新聞。サンケイスポーツの記者だった著者の体験が随所ににじみ出ている。
10話で構成されるが、報知新聞をモデルにしたようなスポーツ紙、東都新聞の野球部次長から即売部次長に異動した笠間哲治とそのライバルで野球部の筆頭次長となった伊場克行を軸に物語は進む。
特ダネの情報漏えいをめぐる編集と販売の対立、ある球団から新聞社へかかった圧力と駆け引きなど、スポーツ紙の現場でありそうなエピソードが盛り込まれている。ところが哲治は突然の悲劇で物語から退場を余儀なくされる。少し時が流れた第三話から哲治の長男翔馬がライバル紙日日スポーツの即売部員として登場し、駅売り新聞の激しい部数競争で実績をあげ、念願の野球記者として活躍する。
巨人を思わせる老舗球団にFAで移籍した大物選手に食い込んだ翔馬だが、東都の編集局長となった伊場との確執から監督人事の特ダネを落とし、自ら販売へ戻る。一方、次男の翼は伊場の引きもあり東都でアルバイトとして働きはじめ、やがて記者となり野球を取材する。哲治と伊場の間には、いったい何があったのか。平成という時代を舞台に父・兄・弟、二代の大河小説の趣がある。
記者と取材対象との距離感ややりとりは、一般紙以上にスポーツ紙は厳しいようだ。野球選手をはじめスポーツ選手は口が重い。また政治家、経済人、官僚らと違い、そもそもメディアに話す義務もない。どうやって選手と親しくなるのか、信頼されるようになるのか、営業マンにも参考になるだろう。
Jリーグが発足した1991年頃に物語は始まるから、まだ携帯電話は珍しい時代だ。「東京にいる時〈〇三〇......〉から始まる電話番号なのに、関西など遠くに出張に行くと〈〇四〇に変えておかけ直しください〉とアナウンスされ」浮気がばれたというエピソードが時代を感じさせる。通勤電車はスポーツ新聞を読む乗客であふれていた。一般紙の記事もそうだが、今はネットニュースでスポーツ記事を読むのが普通になった。本書にはスポーツ紙が駅売りで競った頃の熱気があふれている。
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