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社会部記者の出世競争と言えばそれまでだが......

傍流の記者

 元新聞記者が書いた小説は昔から数えきれないほどあるが、新聞記者が主人公になる小説としては、上毛新聞記者だった横山秀夫さんの『クライマーズ・ハイ』、読売新聞記者だった堂場瞬一の『犬の報酬』がすぐに浮かぶ。少し年代が下がったところでは、元神戸新聞記者の塩田武士さん。グリコ森永事件を下敷きにした『罪の声』は一昨年(2016年)16万部のヒットとなった。

 やはり一昨年『ミッドナイト・ジャーナル』で吉川英治文学新人賞を受けた本城雅人さんも産経新聞とサンケイスポーツの記者を経て作家になった。その本城さんの新作が『傍流の記者』(新潮社)だ。

 タイトルに「傍流」とあるのは、舞台となる「東都新聞」は、政治部や外信部が社内の出世レースでは主流で、本書に登場する社会部記者たちが所属する社会部は今や「傍流」にあるという意味があるからだ。「警視庁の植島」「検察の図師」「国税の土肥」「調査報道の名雲」「遊軍の城所」とそれぞれが社会部のエースと自認する5人の同期は、デスク(次長)への昇格をめぐって、つばぜり合いしている。それぞれまれに見る優秀な実績を挙げているが、その中からやがて部長となり、さらに上のポストにのぼりつめるのは一人だ。同期にはもう一人、社会部から人事部へ移ったスーパーエリートの北川がいた。

 首相がらみの特報が原因で東都新聞は大揺れする。記事を出稿した社会部の5人はどう動くのか? 出世か、家族か、組織か、保身か、正義か、嘘か。

 新聞社の組織、中でも社会部の実態に即した描写はリアリティに満ちている。ここでは詳しく書けないが、後日談とも言えるクライマックスに著者があえて「傍流」と打った真意が伝わってくる。

 それにしても、睡眠時間を削り、休みを返上して取材競争にあけくれる社会部記者は、いまあまり人気がないという。先日紹介した『働き方改革』(毎日新聞出版)でも、「特ダネは自己満足。仕事熱心なつもりが、最も情報の取れない行動に陥っている」と新聞記者に厳しい視線が送られている。新聞記者が主人公になる小説が広く受け入れられる時代はそろそろ終わるのかもしれない。   

  • 書名 傍流の記者
  • 監修・編集・著者名本城雅人 著
  • 出版社名新潮社
  • 出版年月日2018年4月25日
  • 定価本体1600円+税
  • 判型・ページ数四六判・250ページ
  • ISBN9784103360537
 

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