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新宿御苑をおもてなしのセントラル・パークに

外国人が見た日本 「誤解」と「再発見」の観光150年史

 紅葉の季節、各地の名所には紅葉狩りの人たちが押し寄せているが、近年はその相当の割合が外国人観光客で占められている。春の花見の時季も同様だ。年間を通じ各地で増えている外国からの観光客は、東京など都市を目指してくる人たちでも、訪問の目的として「自然を感じる」ことを重視しているのだという。迎える側のわたしたちは「おもてなし」ばかりを考えがちだが、観光立国のためには、それだけでは足りないのだ。

2020年には4000万人に

 本書『外国人が見た日本 「誤解」と「再発見」の観光150年史』(中央公論新社)は、政府の観光立国政策により外国人観光客が増えるなか、国際観光地としての日本の近現代史を俯瞰したうえ、今後への提言を盛り込んだものだ。

 時代を追って外国人観光客は増えてきたが、激しい伸びを示すようになったのは「現代」になってからだ。2009年(679万人)には前年のリーマンショックによる世界的景気低迷で、11年(622万人)には同年の東日本大震災で大幅な減少を経験したが、翌年からは、かつてなかった激増に転じ、13年(1036万人)に1000万人を突破、15年(1974万人)には2000万人にあと少しと迫ったものだ。

 東日本大震災によるとみられる激減から、12年には当時の野田佳彦内閣が「観光立国推進基本計画」により、16年までに「1800万人」の目標を立てていたのだが、これを前年にクリア。この後も増え続け、16年2404万人、17年は2869万人を記録。東京五輪がある20年の目標は「4000万人」とされる。

勘違いな?おもてなし

 10年前に比べると2000万人以上も増えている外国人観光客。いつでもどこでも、どころか、えっ!?こんなところにも...と思うような場所でも彼ら彼女らをみかけるわけだ。本書では、第8章「現代の観光立国事情」でそうした現象のナゾ解きにトライ。調査をつぶさにみると、外国人の日本旅行中の関心の的の上位には「食べる」「買う」などに次ぎ、おもてなしリストにはない「繁華街の街歩き」や「自然・景勝地観光」が並ぶのだ。旅の目的として奇異ではないのだが、迎える側の意識とズレているから意外感につながるらしい。

 本書では合わせて、東京都が都民に聞いた「東京を訪れた外国人に体験してほしいこと」の調査結果を紹介。どんなおもてなしを提供したいかということを尋ねている。最も多い回答は「日本食」で、これは外国人が体験したいことのトップであり、おもてなしがしっかり通じている。だが、外国人が体験したい2番目に「自然を感じる」ことを挙げているのに対し、おもてなし側の同項目の順位は7位で「両者の間のギャップが大きい」と著者。

高尾山が最高の観光地

 「外国人旅行者は、われわれが思う以上に東京の自然を探訪したがり、実際に訪れた人はそこを高く評価している」と著者。07年に「ミシュラン」が、高尾山に最高ランクの三ツ星をつけたことは、日本人との意識差の好例にあげる。東京のような大都市から電車ですぐに行ける場所にあるにもかかわらず、自然の豊かさは貴重な存在で、ぜひ訪れる価値があると推奨されていたものだ。

 また山梨県の「新倉富士浅間神社」は、赤い五重塔と富士山とのツーショットが、外国からの訪問者による発掘で世界に広まった。春にはサクラの花のピンク色が彩を添え、さらに日本的にもなる構図になる。それが、タイ人観光客の間で「富士山と京都(のような景色)を同時に見られる場所」として評判になりSNS発信された。国際的に知られる名所となり、15年版「ミシュラン・グリーンガイド・ジャパン」の表紙を飾るに及んで、その地位はゆるぎないものになった。

 意外なところでは、鎌倉の、地元の名物でもある江ノ電の踏切が、人気アニメに登場する場所であることから、アニメの人気が高い台湾からの旅行者が多数訪れるようになった。ほかに「こんなところにも...」という外国人観光客に人気が高い「自然を感じる場所」には、サル専用の露天風呂がある長野県の湯田中・渋温泉郷や、シカとふれあえる奈良公園がある。

東京にまだある「自然」資源

 著者の内田宗治さんは1957年生まれで、大学卒業後、経済誌記者や旅行ガイドブックシリーズの編集長を経てフリー。鉄道や地図についての著作が多い。

 内田さんは、東京を訪れる外国人観光客らが、都会の自然に魅かれることに注目。郊外の高尾山などばかりではなく、新宿御苑や明治神宮、皇居東御苑などの人気が高いことから、自然志向にこたえるおもてなしとして、これらを観光資源としてさらにいかすことを提言する。その一つは新宿御苑の無休化。「外国人は、新宿御苑をロンドンのハイド・パークやニューヨークのセントラル・パークに似たものとイメージする。それらのパークには休園日はないし、夕方になってすぐ閉門というわけでもない」からだ。

 また「殺風景な大広場」のようになっている皇居東御苑について、訪日外国人プロモーションのための予算を回すなどして、歴史的建物の復元を考えてほしいとも述べる。そうなれば、国内からも観光客は増えるに違いない。

 J-CAST BOOKウォッチではこれまで『外国人が熱狂するクールな田舎の作り方』(新潮新書)『訪日外国人からの評判を高める飲食店の対策集 』(旭屋出版)『インバウンドでチャンスをつかめ』(経団連出版)なども紹介している。

  • 書名 外国人が見た日本 「誤解」と「再発見」の観光150年史
  • 監修・編集・著者名内田 宗治 著
  • 出版社名中央公論新社
  • 出版年月日2018年10月22日
  • 定価本体880円+税
  • 判型・ページ数新書・288ページ
  • ISBN9784121025111

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