日本を訪れる外国人旅行者(インバウンド)が増え続けている。2017年は2800万人を超えて、消費額も4兆4000億円になった。この5年間で3兆3000億円も増えたという。
本書『インバウンドでチャンスをつかめ――中小企業における訪日外国人受け入れの現状と課題』(経団連出版)は、タイトルにもあるように、こうした状況に「中小企業」がいかに対応すべきかを示した本だ。
全体は5章に分かれている。「第1章 インバウンド受け入れの意義と動向」、「第2章 中小企業におけるインバウンド受け入れの実態」、「第3章 拡大する訪日市場と受け入れ態勢の課題」、「第4章 インバウンドの増加と国内旅行業」「第5章 インバウンドにみる多文化共生社会とは」。日本政策金融公庫総合研究所による編著。このほか(財)日本交通公社の専門家や大学の研究者が分担して書いている。
政府は2020年までにインバウンドを4000万人、30年までに6000万人とする目標を掲げている。ますます増えるわけだ。それに伴って運輸、旅行、観光、その他の関連産業も潤い、ビジネスチャンスが膨らむ。ところが、個々の会社で見ると、インバウンド対応に差がある。はっきりしているのは、インバウンド効果を享受している会社は、それなりの手立てをしているということだ。
2章の「インバウンドが多く集まる企業」を読むと、そのあたりがわかる。対応には「旅マエ」「旅ナカ」「旅アト」という3段階があるようだ。「旅マエ」はネットやSNSによる集客前のPR、「旅ナカ」は外国語での接客やキャッシュレス決済など旅の途中のサービス、「旅アト」はDMや電子メールでのフォローなど。2300社へのアンケート調査をもとにしているが、インバウンド獲得に熱心な会社は、当たり前だが、「マエ」「ナカ」「アト」についても熱心だということが浮かび上がっている。
こうした総量的な調査と同時に、本書ではいくつかの事例が紹介されている。具体性という点では興味深い。
東京の台東区にある部屋数48室のビジネスホテルは、かつては稼働率が6割を切っていた。しかしインバウンドを積極的に受け入れ、現在では9割を維持している。お客の主力はタイ人。宿泊したタイ人が、帰国後にウエブで口コミしてくれたのが弾みになった。今やホテルのウエブサイトは英語に加えてタイ語でも制作している。タイ在住の日本人に頼んでいるそうだ。
横浜市の伊勢佐木にある老舗の化粧品販売店は、近くにインバウンド向けのホテルが増えて外国人が目立つようになった。そこで2016年に免税店の許可を取得し、インバウンドが好む高級化粧品に力を入れ始めた。中国人のアルバイトも雇い、商品説明ができるようにして売り上げを伸ばしている。
インバウンド客の8割はアジアからと言われ、彼らをターゲットにしたメディアは多い。鎌倉市にあるネットメディアは、むしろインバウンド市場では少数派の欧米客向けの情報発信に力を入れている。書き手は日本在住の外国人。彼らが実際に足で歩いて自分の目で見た情報をネットで発信している。
総論からヒントを探るのもよし、具体例に触発されるのもよし。本欄ではすでに『訪日外国人からの評判を高める飲食店の対策集』なども紹介している。
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