読むべき本、見逃していない?

ネットに負けないNHKのパワーを見せつけた!

  • 書名 暴走するネット広告
  • サブタイトル1兆8000億円市場の落とし穴
  • 監修・編集・著者名NHK取材班 著
  • 出版社名NHK出版
  • 出版年月日2019年6月11日
  • 定価本体800円+税
  • 判型・ページ数新書判・210ページ
  • ISBN9784140885901

 ネット広告が相変わらず二ケタ成長を続けている。来年あたりはテレビ広告を追い抜いて「広告の王者」となるらしい。ところが、ネット広告の世界では一皮めくると、途方もないインチキが横行している。ちょっとした「闇社会」だ。本書『暴走するネット広告――1兆8000億円市場の落とし穴』(NHK出版新書)はその実態に、NHKの「クローズアップ現代+」の取材班がグイグイ迫ったものだ。ミステリー小説を読んでいるような感じで、虚々実々の取引が横行するネット広告の裏側を知ることができる。

フェイク広告で顧客を呼び込む

 冒頭に登場するのは、ある女子大生の話だ。ネット広告を見て思わず「月々6980円」を支払うダイエットサプリを購入した。広告には、マツコ・デラックスさんの驚いた写真の下に「○○(商品名)すげー!!」という字幕が付いていた。「30日間解約保証」というので軽い気持ちで購入して使い始めた。しかし、自分には合わないとわかり、解約しようとしたら、何回かけても電話がつながらない。心配になって商品名でネット検索すると、「電話がつながらず、解約できない」という購入者の声が次々に見つかった。

 マツコさんの画像は、当然ながら無断使用。広告はいわゆる「フェイク広告」だった。

 そこで「クローズアップ現代+」取材班の登場だ。サプリを売っていたのはベンチャー企業の20代の学生社長だということを突き止める。どうしてこんな「フェイク広告」でサプリを売っているのか。問いただすと社長は「広告が出ていることは知っている」と認めつつ、「僕らとしては、誰がどんな広告を書いているか、追い切れない」というのだ。

 この社長によれば、サプリの「フェイク広告」は「アフィリエイト」と呼ばれる成果報酬型のネット広告の仕組みを使って出稿されていた。

 広告主(今回はサプリ販売会社)が「ASP(アフィリエイト・サービス・プロバイダ)」と呼ばれる広告仲介業者に広告作成を依頼する。ASPは自社が契約する「アフィリエータ―」と呼ばれる広告制作者(法人や個人)に商品を宣伝する広告サイトの作成を呼びかける。この広告画面から誰かが商品を購入すると、ASPやアフィリエータ―に成功報酬が支払われる仕組みだ。

 サプリ社長は約30社のASPと契約していた。ASPの中には何百、何千というアフィリエータ―と契約している会社もある。

 取材班は執念深く、どのASPが関与していたかを割り出す。ASP側は「一部のモラルのないアフィリエータ―がやっていること」「見つけた場合は契約解除」と弁明する。

 サプリ会社の学生社長は、解約に難航することについては「予想以上に売れてしまい、電話対応が追い付かない。コールセンターの人員を増やします」と殊勝だが、本当だろうか。この事件から浮かび上がるのは、フェイク広告でも顧客を呼び込むことができれば関係者が儲かる、というネット広告の負の一面だ。

「ネットの闇」の中に姿をくらます

 最近話題の事件で言えば、「漫画村」についてもこってり書かれている。人気漫画を無料で読める海賊版サイトだ。2016年ごろにできたようだ。無断掲載の雑誌・漫画は5万点を超えており、非常に多くの漫画ファンに利用されていた。漫画家や出版社にしてみれば、著作権侵害。自分たちの作品がタダで読まれてしまう。出版物が売れなくなる。取材班は17年秋ごろから動き出す。

 この取材は非常に難航した。というのも「漫画村」の運営者側が徹底して「ネットの闇」の中に姿をくらましていたからだ。

 取材班はまず、「漫画村」のIPアドレスが、アメリカのクラウドフレア社のサーバーのものだと突き止め、実際にアリゾナの同社まで出かける。しかし、同社は「ネットワーク・プロバイダ」であり、そもそもの持ち主「ホスティング・プロバイダ」はウクライナにある「V社(仮名)」だという。そこで取材班がウクライナに飛ぶと、V社の経営者は何かのトラブルで既に4年半前に殺されていたことが分かる。取材班は現地で粘って、このV社がウクライナのW社に買収されていることを突き止める。

 W社は体育館のような建物に約250台のサーバーを管理していた。これが「漫画村」のオリジナルサーバーだった。そしてさらに調べると、このウクライナのサーバーはスウェーデンのプロバイダを介して「漫画村」と契約していたことが分かる。だが、このスェーデンのプロバイダは「防弾ホスティング」と呼ばれるサービスを提供しており、削除要請や問い合わせには一切応じない。「漫画村」の運営者が相当入念な身元隠しを行っていることだけは分かった。

配信業者は取材拒否

 ここでいったん追跡が壁にぶち当たるが、取材班は本書の主題である「広告」の側面から再度アプローチを試みる。「漫画村」のサイトには多数の広告が掲載されていた。それが彼らの収入源だ。そこを洗うと、運営者にたどり着けるのではないかと。

 結論から言えば、これも難しかった。クライアント(広告主)は自社の広告がどのサイトに配信されているか把握できていない。何千、何万というサイトに掲載されるからだ。肝心の配信業者は取材拒否。

 取材班は「漫画村」を追跡していたホワイトハッカーの協力を得て、運営者と思われる人物に電話取材を試みるが、「のらりくらり」でかわされる。「漫画村」は18年4月に接続できなくなって結局、闇に消えた――というところまでが本書に書かれている事件の概要だ。

 

 その後19年7月になって、「漫画村」運営者とみられる星野路実容疑者がフィリピンで拘束され、運営に関与したとされる二人が逮捕された。これから捜査当局が本格的な解明を進めることになる。

 7月10日の朝日新聞によれば、同紙は「漫画村」のサイト配信を代行していた米国の通信事業者が開示した契約者情報から18年3月には、星野容疑者の名前と住所、電話番号を割出し、5月以降、容疑者の母とやりとりしてきたという。ネット犯罪に詳しい須藤龍也編集委員が書いている。クローズアップ現代とほとんど同時進行で類似の取材をすすめていたことが分かる。

 本欄で紹介した『フェイクウェブ』(文春新書)には、ネットに「闇空間」があり、世界からワルたちが流れ込んでいる様子が活写されているが、「漫画村」にもそのような臭いを強く感じた。

専門のセクションと記者が必要な時代

 本書はNHK「クローズアップ現代+」で放送された「追跡! 脅威の"海賊版"漫画サイト」「追跡! ネット広告の"闇"」「追跡! "フェイク"ネット広告の闇」という、ネット広告の"闇"を探るシリーズの書籍化だ。以下の5章に分けて詳説している。

 第1章 肥大化するネット広告──ニセ広告が作られるわけ
 第2章 巨大海賊版サイトとネット広告
 第3章 あなたの税金も狙われている
 第4章 闇に消える広告費 ──儲けているのは誰だ!?
 第5章 ネット広告不正をなくすために

 プロジェクトチームをつくって追跡したが、ネット広告の闇を探る取材過程は、驚きの連続だったという。

 「取材班が目の当たりにしたのは、ネット広告の急速な拡大を支える『アドテクノロジー』と呼ばれる技術の進化の裏で行われていた『儲かるならば何をやってもいい』とも言えるようなモラルを踏み外した不正、『利益が上がっているから』と不正を見て見ぬ振りをする関係者たちの無責任な態度の広がり、そして制御不可能なほど複雑に絡み合ったネット広告の流通システムだった」

 冒頭にも書いたが、本書はミステリータッチで読みやすい。ヤフーや電通も出てくる。企業の広告や宣伝担当者だけでなく一般ユーザーにとっても、不透明なネット広告の内幕をわかりやすく知ることができる格好のテキストになっている。

 取材班はNHKの「ネットワーク報道部」の記者が中心になっているようだ。余り聞きなれない組織名だ。他の大手マスコミでも同様のセクションがあるのだろうか。上記のように「ネットの闇」は国際的であり、社会部、経済部、国際部、科学部、政治部、文化部などに広くまたがる。テレビや新聞には、「ネットの闇」を解剖する専門のセクションと記者が必要な時代になっているということを痛感する。

 本欄では国家レベルのネットのインチキを扱った『フェイクニュース』(角川新書)なども紹介している。

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