本書『どんな個性も活きるスポーツ・ラグビーに学ぶ オフ・ザ・フィールドの子育て』(エッセンシャル出版社)は、ラグビーの持つ多様性を家庭での子育てに活かそうという趣旨の本だ。
著者の中竹竜二さんは、日本ラグビーフットボール協会理事。1973年福岡県生まれ。早稲田大学卒業、英国・レスター大学大学院修了。三菱総合研究所を経て、早稲田大学ラグビー蹴球部監督に就任し、自律支援型の指導法で大学選手権二連覇を果たす。2010年、日本ラグビーフットボール協会の「コーチのコーチ」であるコーチングディレクターに就任。2016年には日本代表ヘッドコーチ代行も兼務。日本代表チームが躍進した立役者の一人でもある。
ラグビーではポジションごとに求められる役割が異なるため、どこか得意なところがあれば、欠点があっても活躍できる場所があるという。そういう「多様性」は実社会の在り様に近いのでは、と指摘する。そうであれば、多様性の時代を生きていくために、「ラグビーに学ぶ」という視点があってもいいのでは、と考え、執筆したという。
本書の構成は以下の通り。
1章 「自分らしさ」を見つければ、可能性はずっと広がる! 2章 off the fieldで子どもを伸ばす親の6ヵ条 3章 自他ともに成長するための「フォロワーシップ」 4章 特別対談vs.高濱正伸さん
日本ラグビーフットボール協会のコーチングディレクターの経験から、「成長を知るには、他人ではなく、あくまでも自分の過去と現在に物差しを当てて測るしかない」という。これを「わが子」に置き換えると、他の子と比べるのではなく、わが子自身に目を向けることだ。
そのためには、コーチ自身が自分と真剣に向き合うこと、親も自分自身の成長に目を向けることだという。「子どもの話を長く聞けるようになった」、「ちょっと待てるようになった」という小さな変化を見つめるだけで十分で、それが出来るようになれば、自然と子どもの姿にも目が行くようになる、と説く。
コーチングの分野では、プロフェッショナル(専門的能力)、インターパーソナル(人間関係構築能力)、イントラパーソナル(自己認識能力)、フィロソフィー(哲学)の4つの能力が求められるが、中竹さんは3つ目のイントラパーソナル(自己認識能力)がすべての土台になると考えている。
2006年、カリスマ監督と言われた清宮克幸氏の後に、早稲田大学ラグビー蹴球部監督に就任してからの失敗のエピソードを披露し、「自分らしさ」を見つける方法について書いている。
子どもを持つ親にとっては、「2章 off the fieldで子どもを伸ばす親の6ヵ条」が参考になるだろう。「off the field」とは、ラグビーでボールを持っていない時の動きを指す。試合や練習中だけでなく、食事や会話など「off the field」でのつながりが、いざという時に力を発揮する、と指摘する。
これを家庭に応用すれば、家や家族との時間が大切になるということだ。その上で、子どもを伸ばす親になるための6ヵ条として、以下の項目を挙げている。
1 一番大事なのは、わが子をよく見る「目」 2 心を見るコミュニケーション 3 本当に安心できる居場所になる 4 他者評価で考えない、他者との比較を基準にしない 5 存在承認の最大の理解者になる 6 その子らしさを見つけて認める
3章に出てくる「フォロワーシップ」という言葉は耳慣れない。リーダーを陰で支えたり、見えないところでサポートしたりすることだ。「全員がリーダーシップとフォロワーシップを持つ組織が、目まぐるしく変化するこの環境に対応し得るのではないかとさえ思うのです」と書いている。
今回のラグビー日本代表チームには、リーダーグループがあり、そのリーダーたちも固定ではなく、何度も入れ替えをし、みんながリーダーを経験したという。
また、早稲田の監督時代に、世間が期待する理想のリーダー像とは対極にある選手をキャプテンに押し、最後に対抗戦で2敗を喫しながら、全国大学選手権で優勝するという前代未聞の快挙を成し遂げたエピソードを披露している。
コーチング理論と大学や日本代表チームでの経験をうまくミックスし、わかりやすく個性を伸ばす方法を解説している。
最終章の「花まる学習会」代表・高濱正伸さんとの対談では、ラグビー選手としては致命的に足が遅かったことや英国留学中には言葉がまったくダメだったことなどを披露、そこからどうやって活路を見出したかを話している。
従来のスポーツ指導者とはかなり肌合いの違うキャラクターと独特に言語化した理論は、ラグビー以外の分野でも大いに役立ちそうだ。
BOOKウォッチでは、関連で『新版 一流選手の動きはなぜ美しいのか――からだの動きを科学する』(角川選書)、 『ラグビー知的観戦のすすめ』(角川新書)などを紹介済みだ。
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