2019年10月13日、ラグビー・ワールドカップの日本対スコットランド戦が行われる。決勝リーグへの進出がかかった試合なので、高い関心を集めている。にわかラグビーファンの中には、ラグビーのルールがわからないという人もいるようだ。ラグビー観戦の面白さを伝えてくれるのが、本書『ラグビー知的観戦のすすめ』(角川新書)だ。
著者の廣瀬俊朗さんは、ラグビー・ワールドカップ2019公式アンバサダー。慶応義塾大学を経て東芝に入社。2007年から日本代表になり、12年から13年まで日本代表のキャプテンを務めた。今年放送されたラグビーを題材にしたドラマ「ノーサイド・ゲーム」(TBS系)にも出演したので、知っている人も多いだろう。
単なるルール解説ではなく、ルールを生んだ背景を説明し、「多様性」という観点からラグビーの魅力を語っている。
ラグビーの覚えておくべき二つの原則は「ボールを持った人が先頭」「倒れた人はプレーできない」ということだという。タックルされた後にボールを争奪する場面があり、何が反則になるのか外からは見ていてわかりにくいが、「自立」つまり自分の両足で立っていることと、「組み合ったら手でボールを触れない」ということを知っておけばいいそうだ。
ところでラグビー・ワールドカップは、今回でやっと9回目だ。最初に開催されたのは1987年のこと。サッカーのワールドカップが、1930年に開かれたのに対し、半世紀も遅い。廣瀬さんはその理由をラグビーが長く、「ホーム&アウェー」方式で行われたからだと説明する。それぞれ独自のルールがあり、開催地のルールで試合が行われた。2試合の合計で勝敗を競った。1871年に統一したルールが成文化され、この年にイングランドとスコットランドの間で、世界最古のテストマッチも行われた。また、サッカーのようにいくつものチームをひとつの大会に集めて「どこが一番強いか」を競うカップ戦を長く禁じてきた。さらに1995年に廃止されるまで厳しいアマチュア規定があった。カップ戦とプロの否定が、サッカーから57年もワールドカップ開催が遅れた理由だという。
日本チームの試合を見ていて、さまざまな国籍の選手がいることに驚く人もいるだろう。代表資格が以下のように定められているからだ。
国籍=その国のパスポートを所持する者 血縁=2親等以内の親族がその国出身である者 地縁=その国に継続的に3年以上居住する者(2020年末からは5年に延長)、累積10年以上居住している者
これはイングランドを中心とした「大英帝国」でラグビーが生まれたことに由来する。ラグビーをプレーしたエリートたちが植民地経営のため、世界各地に派遣された。そうした人たちが派遣先で思う存分プレーできるように定めた。その地のラグビー協会が代表に選べば、母国の代表チームとも対戦できる道を残したのだ。
廣瀬さんは、「ラグビーは多様性を持った競技」だという。各ポジションの特性や特徴もそうだし、選手たちもグローバルだ。ラグビーが「議論する」文化を教えてくれたそうだ。ラグビーの多様性について話すうちに、肉体をぶつけ合うときの勇気や、相手を思いやること、規律を守ることにつながった、と書いている。
先日のアイルランド戦でも、試合終了後、アイルランドの選手たちが花道をつくって、日本チームの勝利を称えた。激しくぶつかり合っても、試合が終わればノーサイド。敵も味方もない。
廣瀬さんは今回、「スクラムユニゾン」という活動に取り組んでいる。参加国・地域の国歌などを現地の言葉で歌おうというものだ。みんなで肩を組んでいっしょに歌う。本書には各国の歌詞カードが付録に付いている。13日の夜も聞くことができるだろう。
本書は9月10日に発行され、ひとつき経たずに重版された。各チームの分析も載っているので、11月2日の決勝戦まで役に立つだろう。
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