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パワハラ防止の改正法が6月に施行された!

パワハラ防止ガイドブック

 事業主にパワハラ防止措置を義務づける改正法が、2020年6月1日に施行された。本書『パワハラ防止ガイドブック』(経団連出版)は、パワハラ指針の概要や企業のとるべき対応策、過去の裁判例に加え、人事管理のポイント、相談対応とトラブル防止の具体策などをわかりやすく解説した本だ。

パワハラで解任された北大総長

 2020年6月30日、萩生田光一文部科学相は、北海道大学の名和豊春総長を、部下を過度に叱るなどの不適切行為を繰り返したとして解任した。北大の総長選考会議からパワハラによる解任の申し出があり、28件の不適切行為を確認したという。名和氏はパワハラを否定し、処分取り消しを求めて裁判に訴える構えだ。この一件で、パワハラに対する注目が集まっている。

暴力・暴言だけではないパワハラ

 まず、注意しなければならないのは、パワハラとは暴力・暴言だけではないということだ。法が定義するパワハラ言動とは、①優越的関係を背景として、②業務上必要かつ相当な範囲を超えて③就業環境を害する言動を指している。パワハラの3要素だ。

 本書では、以下の言動を「就業環境を害する」具体例として挙げている。

 ・ドアをわざと強く閉めて大きな音を出す
 ・書類で強く机を叩く、消しゴムを投げつける、椅子や机を蹴るのを見せつける
 ・上司が若手社員に対し、複数回にわたり、約30分間立たせたまま「どういう育て方をされてきたのか」「この会社に向いていない」などと発言する
 ・ミスの多い部下に対し、「俺はその気になれば2~3人はクビにできる」「前にも君のようなやつがいたがメンタルで辞めていった」などと発言する
 ・会議中に他の社員や取引先もいる前で「何やっているんだ!」「何回言ったらわかるんだ!」と大声で怒鳴りつけ、「だからおまえは駄目なんだ」と過去の失敗まで持ち出し、執拗に叱責を継続する
 ・特定の部下をターゲットにして、周囲の社員に「あいつは役に立たない」「信用できない」「口をきくな」と中傷する
 ・上司が自身のプライベートな飲み会の予約をしておくよう部下に強制する
 ・気に入らない部下に対して、嫌がらせ目的で「今日は一日中反省していなさい。仕事しなくていいから」などと告げて、別室での待機を命じる
 ・職場内で同僚が集団になって1人の特定の社員を無視したり、聞こえるように悪口を言ったりする
 ・その部署の知識・経験に長けた部下数名が、配属されたばかりの管理職に集団で「あんたの言うことは聞けない」「いい年して何やってるんですか」などと述べる

「部下→上司」のパワハラも

 最後の2例にあるように、「優越的関係」は、「同僚間」「部下→上司」であっても、知識・経験や集団による優位性を背景とした言動も該当するので、注意が必要だ。「第1章 パワーハラスメントとは」を執筆した橘大樹弁護士は「企業の実務対応においては、優越的関係があろうとなかろうと、業務上必要かつ相当な範囲を超えて就業環境を害する言動に対しては、職場環境を守る観点から適正に対処していくと考えるのが適当です」と書いている。

問題行動への指導はパワハラにあたらない

 パワハラ3要素の2つ目は「業務上必要かつ相当な範囲を超えて」ということだが、問題行動に対する強い指導はパワハラには該当しない。以下の例を挙げている。

 ・遅刻など社会的ルールを欠いた言動がみられ、再三注意してもそれが改善されない労働者に対して一定程度強く注意すること
 ・その企業の業務の内容や性質等に照らして重大な問題行動を行った労働者に対して、一定程度強く注意をすること

 「問題行動」と「能力・パフォーマンス」は分けて考えるべきで、後者に対する強い指導は、パワハラに該当するかは別として、精神的負荷を及ぼす懸念があるため要注意ととらえるべき、としている。

パワハラの6類型

 職場のパワハラの行為類型として次の6類型を示している。

 ・身体的な攻撃(暴行・傷害)
 ・精神的な攻撃(脅迫・名誉毀損・侮辱・ひどい暴言)
 ・人間関係からの切り離し(隔離・仲間外し・無視)
 ・過大な要求(業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことの強制・仕事の妨害)
 ・過少な要求(業務上の合理性なく能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じることや仕事を与えないこと)
 ・個の侵害(私的なことに過度に立ち入ること)

 「第2章 パワハラを誘発させないマネジメント」「第3章 相談対応のポイント」に防止策が書かれている。苦情・相談窓口の設置など、組織としての対応が求められる。また社内研修も必要なようだ。

 働く立場としては、被害者にならないために知っておくべきこともある。労働者には、安全で健康な職場を求める権利があること、記録を残すこと、「パワハラ防止法」をプラスに活かすことなどを挙げている。

 中小企業主は経過措置として2022年3月31日まで、努力義務とされ、同年4月1日から義務化される。ただし、努力義務とは是正勧告、企業名公表を受けないことを意味するにとどまる。中小企業だから、何もしないと放置するのではなく、一定の防止策を検討するのが望ましいようだ。

 BOOKウォッチでは関連で、『パワハラ・セクハラ・マタハラ相談はこうして話を聴く』(経団連出版)、『自分らしく働く LGBTの就活・転職の不安が解消する本』(翔泳社)などを紹介済みだ。

  


 


  • 書名 パワハラ防止ガイドブック
  • サブタイトル判断基準、人事管理、相談対応がわかる
  • 監修・編集・著者名橘大樹、吉田寿、野原蓉子 著
  • 出版社名経団連出版
  • 出版年月日2020年6月 1日
  • 定価本体1400円+税
  • 判型・ページ数A5判・136ページ
  • ISBN9784818519213
 

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