本書『介護ヘルパーはデリヘルじゃない』(幻冬舎新書)というタイトルは、なんとも刺激的だが、本書を読むと必ずしも誇張した表現ではないことがわかる。著者の藤原るかさんは東京都の区役所の福祉事務所でヘルパーとして勤務、その後訪問ヘルパーとして20年以上活動している人だ。本書で紹介されている実例を読むと「介護現場は最も危険なセクハラ横行地帯」ということがわかる。
半身不随の80代の男性の例。就寝介助のため「ベッドに寝ましょうね」と声をかけ、身体を支えようとすると、藤原さんはいきなり麻痺していないほうの腕で抱きつかれた。反射的にかわすと、「だって、ベッドに寝ようっていったじゃないか」と文句をいわれた。
別のヘルパーは70代の男性から抱きしめられ、下半身をなで回され、頬や耳、うなじにキスをされ、身動きが出来なくなった。「何をするんですか、いい加減にしてください」とにらむと「はははは、いや、冗談、冗談」と笑ってごまかしたという。
こうした行為が認知症のせいなのかどうか、境目ははっきりしないが、藤原さんは「病気のせい」で片づけられないと憤る。
パンツを下げ、性器を見せて迫ってくる老人、「性器を洗って」と要求する老人、「お金を払うから、やらせろ」という老人、自慰行為を見せて喜ぶ老人など、とんでもない老人たちの例が登場する。
こうしたハラスメントの経験は藤原さんばかりではない。日本介護クラフトユニオンが2018年に行ったアンケート調査では、女性介護従事者の約3割がセクハラを経験していた。こんな回答があった。
・アダルトビデオのパッケージを見せられ、「どれがいい?」と聞かれた。 ・調理中に後ろから抱きつかれ、胸を触られた。 ・「俺とセックスしたら食べてやる」等の発言があり、食事を拒否する。 ・性的な冗談を繰り返し、性的な質問をしつこくされた。キスをせがまれたり、身体に触られたりした。その都度、受け流すなどの対応をすると、「あばずれのくせに」などと暴言を吐いた。
以前からセクハラ被害はあったが、世間的に問題視する風潮はなかったという。2017年にアメリカで始まった「#Me Too」運動の波が日本にも届き、ヘルパーへのハラスメントが顕在化した。
藤原さんによると、実はセクハラ被害よりパワハラ被害の方がはるかに多く、先のアンケート調査でも女性の7割がパワハラ被害を受けていると答えている。その実例や「在宅で直面するてんやわんやの出来事」が紹介されている。
また、ハラスメント以外に問題になっているのは、ペットの扱いに困るヘルパーが急増していることだ。「ペットの安全が確保できない」、「犬や猫にかまれたり、オシッコをかけられたりなど、サービス提供者の不利益」、「ペットにお金をかけ、自分の介護サービスにお金をかけられないなど、本人の不利益」などが報告されている。
アメリカから始まった「#Me Too」運動は、日本の介護業界を変える大きなきっかけになっているという。厚労省も2018年度中に実態調査を行い、調査結果をもとに事業者向けの対策マニュアルを作り、職場環境の改善や再発防止につなげたい、としている。
利用者の中にはヘルパーを家政婦のように扱う人がいる。「3K」労働などメディアによる報道でマイナスイメージが強くなった結果ではないか、と藤原さんは指摘。介護従事者の社会的地位の向上が解決の糸口と訴えている。
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