映像化したら映えそうな「高校に残る都市伝説をめぐって人々の悪意が重なり合う学園ミステリー」とは、一体どんなものだろうか――。この物語のキーワードは「ユリコ様伝説」である。
貴戸湊太(きど そうた)さんの本書『そして、ユリコは一人になった』(宝島社文庫)は、第18回『このミステリーがすごい!』大賞の「U-NEXT・カンテレ賞」を受賞した作品を改題、加筆修正の上、文庫化したもの。本作はドラマ化もされ、U-NEXTで独占配信、カンテレで放送された。
『このミス』大賞とは、ミステリー&エンターテインメント作家・作品の発掘・育成を目的として、2002年に創設された新人賞。受賞作から数々のベストセラーが誕生し、映像化されるケースも多い。こうした背景から新設されたのが、貴戸さんが受賞した「U-NEXT・カンテレ賞」だ。『このミス』大賞応募作の中から、U-NEXT・カンテレが映像化したい一作品が選ばれる。
物語の舞台は、創立90周年になる共学の進学校・私立百合ヶ原高校。入学して間もない主人公・矢坂百合子は、この学校に伝わる「ユリコ様」の噂を耳にする。
「ユリコ様」とは、この学校のトップに君臨する特権的な身分の女子。ユリコという名の女子のみが「ユリコ様」候補になることができる。もし学内に複数人いる場合、その座をめぐり争奪戦となる。ただ、各ユリコが何もしなくても、他の候補者は退学、転校、入院するなどして自然淘汰されていく。最終的に、たった一人のユリコが残る。
「ユリコ様伝説」の元となった初代「ユリコ様」は、屋上から飛び降り自殺。その時の無念や恨みの感情が学内に沈殿して、「ユリコ様」の力が生まれたと言われている。「ユリコ様」に逆らうと不幸が訪れることから、誰もが「ユリコ様」を崇拝し、従わざるを得ないのだった。
現在、「ユリコ様」候補は五人いる。百合子を含め、一年生四人。前「ユリコ様」の三年生一人。果たして百合子は「ユリコ様」の座につくことができるのか、それとも自然淘汰されるのか――。
百合子は「ユリコ様」の候補になってしまったことを、小学校時代からの親友・美月に打ち明ける。すると美月は「ユリコ様の力なんて、所詮オカルトよ。気にする必要ないわ」と言った。
ところがほどなくして、「ユリコ様」候補の一人が屋上から転落。「ユリコ様に......やられた」と言い残し、息を引き取った。そして一人、また一人と「ユリコ様」候補の命が奪われていく。百合子と美月は、連続死の真相と「ユリコ様伝説」の謎に挑む。
百合ヶ丘高校には、「ユリコ様」を崇め奉る「白百合の会」という妙なサークルがある。メンバーは生徒二人、教師一人。「ユリコ様」について語り合い、伝説をノートに記録する。そこで百合子は、過去の「ユリコ様」候補が悲惨な目に遭ってきたことを知る。「どうすれば不幸から逃れられるか」と問うと、メンバーの一人が言った。
「あなたがユリコ様になれば、その問題は解決します。あなたは他人に不幸を与えることができるようになり、あなた自身が不幸に見舞われることはなくなるのです」
「髪を三つ編みにして、赤いシャツを着ればユリコ様の力を最大限に発揮できます。......抵抗する別のユリコ様候補を力で追い払うことができるでしょう」
もはや「戦うしかないのか」と、百合子は「三つ編み」「赤いシャツ」という、初代「ユリコ様」を模した格好をするようになる。
「白百合の会」の存在とともに妙に感じたのが、主人公・百合子の存在感の薄さ、親友・美月への依存度の高さだ。彼女と離れたくないと、猛勉強の末に同じ学校に入ったほど。事あるごとに彼女を頼り、尊敬し、褒め称える。恋人同士かと見まがう描写もちらほら。評者は終始、二人の距離感に違和感があったが、それはエピローグまで読んでようやく理解することとなった。肝心な部分が隠されていた相関図が最後、一気に明かされる。
著者の貴戸湊太さんは、1989年兵庫県生まれ。神戸大学文学部人文学科卒業。近世日本文学(江戸時代)専攻。個別指導塾講師。
「小説を書き始めて7年、書いた作品は長編短編合わせて99作に上ります。苦しい時もありましたが、無事こうして受賞を果たすことができました。......これまでの苦労が報われたようで嬉しいです。......100作目、101作目も新作として皆様に楽しんでいただけますよう、誠心誠意努力して参ります」
本作がデビュー作となる貴戸さん。7年間で99作を書き上げ、ようやく掴んだデビューということになる。この受賞コメントから、作品が一冊の本になるまでに著者がたどってきた道のりの険しさが感じられる。
当サイトご覧の皆様!
おすすめの本を教えてください。
本のリクエスト承ります!
広告掲載をお考えの皆様!
BOOKウォッチで
「ホン」「モノ」「コト」の
PRしてみませんか?