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「神社=日本のオリジナル」ではなかった!

神社に秘められた日本史の謎

 本書『神社に秘められた日本史の謎』 (宝島社新書)は、日本人にとっては当たり前の存在になっている神社について、日本史を振り返りながら復習している。「神社とは何か? それを知ることは日本、そして日本人とは何かを知ることでもある」「古代から近現代まで、52の疑問をすっきり解決!」と帯に記されている。

中国の古書に「神社」「神宮」

 この種のガイドブックは、いわば一般向けに簡略化されていることが多い。しかし、本書はかなり本格的だ。アカデミックな論考を踏まえたものになっていると感じた。

 著者の古川順弘さんは1970年生まれ。早稲田大学第一文学部卒業。宗教・歴史分野をメインとする編集者・ライター。『古代神宝の謎』『神と仏の明治維新』『人物でわかる日本書紀』などの著書がある。監修者として、新谷尚紀・国立歴史民俗博物館名誉教授の名前が出ている。

 本書を読んでいくつか参考になったことがあった。一つは「神社=日本のオリジナル」という常識について。少なくとも「神社」という名称は、オリジナルではないのだという。紀元前4世紀のころに成立したとされる中国の『墨子』の中に、すでに「斉国の神社で、男が一匹の羊を神に供え、誓いの儀式を行った」という話が出てくるそうだ。「神宮」は、中国最古の詩集『詩経』の中の神楽歌について、二世紀ごろ後漢の学者が付した注釈に、「廟を神宮という」と記されている。王族の始祖・始神を祀る宗教的施設のことを、古代中国では神宮と呼んでいたと推測できる。新羅でも、初代王を祀る廟は、5世紀には「神宮」と呼ばれるものになっていたという。

 もちろんこれは、「かみのやしろ」「かみのみや」という大和言葉に対して、漢字文化の流入後に「神社」「神宮」という字を充てたということに過ぎない。しかし、「神社・神宮という語が、もともとは中国の宗教用語であったという事実は、等閑視すべきではない」と注意を促している。

内宮と外宮の争い

 では日本の神社の紀元はいつごろなのか。いくつかの説があるという。神社の造営についての最古級の確実な記録とされているのは、659(斉明天皇5)年。天皇が出雲国造に神宮の修造を命じたというものだ。『日本書紀』による。出雲大社の社殿造営に言及したものと考えられている。

 本書では、縄文・弥生時代に原始的な宗教的祭祀を行っていた可能性があること、4~6世紀の古墳時代に「磐座(いわくら)祭祀」(社殿のない神社)がスタート、7世紀の飛鳥時代に常設の社殿を持つ神社が誕生した、という段階を踏んだ見方を紹介している。

 神道の成立についても解説している。これも初出は『日本書紀』。「天皇、仏法を信じ、神道を尊ぶ」という記述もあれば、「仏法を尊び、神道を軽んず」という文言もあるそうだ。6~7世紀の天皇について書かれたものだ。「縄文・弥生時代にすでに原始神道が成立していた」「奈良時代~平安時代初期に独自の宗教として自覚された」「室町時代頃になってようやく仏教から独立した」など諸説あるとのこと。

 各神社の歴史も平たんではない。例えば伊勢神宮には内宮と外宮がある。両宮は5キロほど離れている。外宮は本来、地主神を祀る独立した神社だったが、朝廷主導の内宮の成立にともない、「神宮」のうちに組み込まれた、というのが今のところ有力な見方なのだという。鎌倉時代には、外宮が内宮と対等あるいはそれを上回る地位を公然と主張し始めた。外宮が祀っているのは、天照大神に先行する神であり、皇祖神の大元だというのだ。この反目は室町時代には争乱に発展、正殿に火が放たれ、斬り合いも起きたという。伊勢神宮は大昔から粛々と続いてきたものだと思われがちだが、血塗られた歴史もあるというわけだ。

皇居の「宮中三殿」は明治期から

 このほか本書は、「天皇家は天照大神をいつから祀っていたのか?」「仏教は神社にどんな影響を与えたのか?」「なぜ全国に一宮と総社がつくられたのか?」「なぜ天神と稲荷が全国に広まったのか?」「秀吉や家康はどうやって神社に祀られたのか?」など盛りだくさん。

 「宮中三殿」についても記されている。天照大神を祀る賢所、歴代の天皇・皇族の霊を祀る皇霊殿、天神地祇を奉斎する神殿の三つからなる、いわば天皇家専用の神社だ。本書によれば歴史は新しく、明治維新後の新たな神社制度によるもの。そもそも江戸時代までは、歴代天皇は仏教式に供養されていたという。

 こうした明治期以降の神社の変容についても、本書は丁寧に説明されている。特に戦前の「海外神社」についても説明されている。1901年、台湾に官立の台湾神社がつくられたのを手始めに、朝鮮では朝鮮神宮など50以上の神社が建てられた。いずれも皇民化政策と深く関わる。満州、樺太、パラオなどでもつくられたが、ことごとく消滅した。これも歴史の一コマと言える。

 なお、本書冒頭で監修者の新谷氏が、縄文、弥生、稲作に関する最新の知見を紹介している。それによると、紀元前10世紀後半には九州北部で稲作が始まり、それが東進、南関東には650~700年かけて到達したそうだ。もはや縄文、弥生という時代区分の限界が明らかだとしている。稲作の開始は相当古く、弥生=稲作開始というのは過去の常識となっているようだ。

 BOOKウォッチでは関連書を多数紹介済みだ。『二十二社――朝廷が定めた格式ある神社22』(幻冬舎新書)は神社の格式の話。『縄文の神が息づく 一宮の秘密』(方丈社)は神社のルーツを縄文時代にまでさかのぼって検討している。『建国神話の社会史』(中公選書)は日本の「国柄」は神仏習合だと見る。『靖国神社が消える日』(小学館)や、『ニュースが報じない神社の闇』(花伝社)は最近の神社が抱える問題を伝える。このほか、『なぜ八幡神社が日本でいちばん多いのか』(幻冬舎新書)、『奉納百景』(駒草出版)、『秘境神社めぐり』(ジー・ビー)、『儲かっている社長はなぜ神社に行くのか? 仕事の神様大事典』(宝島社)、『神木探偵――神宿る木の秘密』(駒草出版)なども。古代史の新しい動向については『ヤマト王権誕生の礎となったムラ 唐古・鍵遺跡』(新泉社)、『新版 古代天皇の誕生』(角川ソフィア文庫)、『ここが変わる! 日本の考古学』(吉川弘文館)も取り上げている。

 海外の神社に関しては『近代日本・朝鮮とスポーツ』(塙書房)が、1925年から始まった「朝鮮神宮競技大会」に触れている。朝鮮神宮が創建され、総合運動場も造成されて、植民地朝鮮の最大級のスポーツイベントになっていたという。



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  • 書名 神社に秘められた日本史の謎
  • 監修・編集・著者名古川順弘 著、新谷尚紀 監修
  • 出版社名宝島社
  • 出版年月日2020年5月 9日
  • 定価本体860円+税
  • 判型・ページ数新書判・200ページ
  • ISBN9784299005120

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