タコはかなり賢いらしい。タコが学習を通じてエサを効果的に捕食する実験をテレビで見た人も多いだろう。最近、よく知られるようになった事実だ。本書『タコの知性』(朝日新書)は、タコが知性を獲得したわけを、親戚筋のイカとの対比を交えて解いてみようという本である。
著者の池田譲さんは、琉球大学理学部教授。タコなど頭足類の社会性とコミュニケーション、自然史、飼育学が専門。著書に『イカの心を探る--知の世界に生きる海の霊長類』(NHK出版)があるように、もともとはイカを研究していた人だ。
一癖も二癖もある面妖なタコに似て、本書も整然とした教科書風ではない。自分語りに始まり、平成の時代にイカで博士になった著者が、令和の時代に「タコ語り」を行う試みの書だという。
構成は以下の通り。
序章 タコと人と日本と 第1章 タコのプロフィール 第2章 タコの賢さ 第3章 タコの感覚世界 第4章 タコの社会性 第5章 吾輩はタコである
タコの知性を説明する前に、一般的なことから紹介している。タコとイカは、2017年に世界の海で377万トン漁獲されているが、このうちタコは1割で残りはイカだという。圧倒的にイカが多いのだ。
イカは海の表層で大規模な群れをつくるので、一網打尽に獲ることが出来る。これに対してタコは集団をつくらず、海底で単独で暮らしている。もともとの個体数の違いもあり、数は稼げない。
本書で初めて知ったが、タコもイカも寿命は短い。たこ焼きの具になるマダコは1年、長くても2年程度だという。スルメイカは1年。頭足類は短い生涯の動物なのだ。
「知性があるなら、長く生きるように思うのだが、それがそうではない。実は、この点こそがタコが抱えるパラドックスで、研究者たちを長年にわたり悩ませている難問である。なぜタコは生き急ぐのか?である」
タコもイカも繁殖したら最後、それで死亡するそうだ。タコの生涯でわかっているのは、主に繁殖期で、大半の過程はよくわかっていないという。
「第2章 タコの賢さ」で、いよいよタコの知性について説明する。イタリア・ナポリの臨海実験所アントン・ドールンのグラスィアーノ・フィオリト博士とレッジョカラブリア大学のピエトロ・スコット博士が行い、1992年に「サイエンス」に掲載された実験を紹介している。人間によって学習訓練を受けたマダコ(実演者)と何の訓練も受けていないマダコ(観察者)を透明な仕切りで隔てる。学習訓練を受けたマダコの様子を観察したタコは、単独になっても同様の行動をした。つまり観察学習をしたと考えられる。
ヒトに近いチンパンジーでも観察学習は難しいので、マダコは相当に賢いと言わざるを得ない。だが、単独行動をするマダコがこの能力を何に生かしているかは不明だと、論文を発表した両博士は述べているという。
他のタコはどうだろうか? とイイダコで観察学習の実験を行った名古屋大学の冨田充博士と青木摂之博士の研究を紹介している。このほか、タコが道具を使うこと、二足歩行することについてふれている。
池田さん自身の研究については、「第3章 タコの感覚世界」「第4章 タコの社会性」で、さまざま紹介している。面白いと思ったのは、実験にかかわった学生や院生にふれながら説明していることだ。
まえがきでは、北海道大学水産学部に学んだ池田さんが、イカの研究からいかにしてタコの研究に移行したかが書かれていた。本書を読めば、生物系の研究者のイメージの一端がつかめるだろう。そういう意味では、高校の生物部の生徒には、相当に参考になる本だと思う。
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