アイデアの勝利というべきか。本書『リアルサイズ古生物図鑑』(技術評論社)は約5億年前から約3億年にわたって続いた古生代に生息し、今はわずかな化石しか残らない古生物を実物大で現代によみがえらせる。
著者の土屋健さんは科学雑誌「ニュートン」の元編集者、今はサイエンスライターとして活躍中だ。古生物研究で定評のある群馬県立自然史博物館の監修を受けている。
地球の歴史は約46億年とされるが、多細胞生物が登場したのは約10億年前とされる。その後約5億年かけて進化した古生代の生き物たちを実物大で再現している。とはいっても手がかりは残されたわずかな化石だけ。残念ながらこの時代の化石は日本にはほとんど出ないので、カナダや中国、ロシアなどから出た化石に基づく推測だ。
本書が取り上げているのは、生物が顕微鏡サイズから、目に見える大きさまで進化をとげた古生代に先駆ける先カンブリア時代末のエディアカラ紀から。今から約6億3500万年前という気の遠くなるような大昔のことだ。約5億4100万年前に始まる古生代から生物は劇的な進化をとげていく。しかし、この時期の生物はまだすべてが海の中に暮らしている。最初に登場するのはイカやタコ、アサリなどの仲間と考えられているエディアカラ紀のキムベレラ。円盤の中央が膨らんだUFOのような形をした不思議な生き物だ。大きさは数㌢から15センチほど。多くはロシアで見つかっている。
本書では、キムベレラはシーフード・パエリアの中に入った形で登場する。なるほどこれだと大きさがよくわかる。だが、乏しい情報をもとに古生物の模型をつくったり、それを現代の風景の中で撮影したりするのはずいぶん苦労があったことだろう。
次が古生代の始まりにあたるカンブリア紀。ここでは三葉虫など昔、高校の地学で習った化石生物も登場する。約5億1500万年前の地層から見つかったあごを持たない「史上最古のサカナ」ミロクンミンギアもいる。全長は2~3センチと小さい。あごがないため、硬い動物を食べることはできなかったと推測されている。本書では金魚鉢の中に入って現れるが、写真には飼い猫がすきあればといった様子で見つめているので笑ってしまう。
その次のオルドビス紀は約4億8500万年前から始まる。三葉虫のつくりが立体的になるほか、ウミサソリというサソリ形の動物も登場する。ウミサソリの一種ペンテコプテルスは全長1.7メートルと人間とほぼ同じ。この時代には瀬戸内海などに生息するカブトガニに似た動物ルナタスピスも出現する。サイズはぐっと小さく5センチほど。なるほどカブトガニを「生きた化石」と呼ぶわけだ。
時代が進むにつれて動物は大型化し、イカに似た身体を持つカメロケラスは全長11メートルと古生代では最大級の動物だ。本書ではロンドン名物の真っ赤な2階建てバスの屋上にくくりつけられている。
次のシルル紀は約4億4400万年前に始まる。本格的な陸上植物が登場する時代だ。約4億1900万年前から約3億5900万年前のデボン紀はサカナの時代。サカナが生態系の覇者になり、脊椎動物が陸上に進出する。
いくら合成写真とはいえ、畳に手をつく京都の芸妓さんの隣にオオサンショウウオに似たイクチオステガが控えるのを見るとちょっとびっくりする。
今日の石炭のもととなる大森林が地上を覆いつくしたのは石炭紀。約3億5900万年前に始まった。この時代には全幅70センチにもなる大トンボ・メガネウラが悠然と空を飛んでいたと考えられている。当時は今より酸素濃度が高く、大型化しやすかったうえ、天敵がいなかったので、大型昆虫が存在したようだ。
約2億9900万年前に始まり、約5000万年間続いた古生代最後のペルム紀は哺乳類への進化の道を開く単弓類が登場した時代だ。表紙の写真にある単弓類のディメトロドンは全長3・5メートルで軽自動車とほぼ同じサイズ。古生代の陸上世界では最大の肉食動物だったという。ここからわれわれになじみの深い恐竜の出現まではもうすぐだ。
本書が扱っている動植物は94種類。見開きの頁に、大きな合成写真とポイントをついた解説、生物学上の分類、化石の産出地、全長などのデータを見ながら、はるか数億年前に思いをはせることができる。
この時代の生き物について、もう少し詳しく知りたい人は、巻末の参考資料にも挙げられている進化生物学者スティーヴン・ジェイ・グールドの『ワンダフル・ライフ』(早川書房)を読むとさらに、古生物学への知識が深まる。本書は古生代編とあるので続編も準備されているのだろう。本づくりの世界でも、手間ひまを惜しまないと、面白いものができるという実例かもしれない。
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