今年(2018年)映画化された東野圭吾さんの作品は、『祈りの幕が下りる時』(1月)、『ラプラスの魔女』(5月)、『人魚の眠る家』(11月公開予定)がある。12月には『手紙』のドラマ化、来年には『マスカレード・ホテル』『パラレルワールド・ラブストーリー』の映画化が予定されている。
東野圭吾さんは、1958年大阪府生まれ。大阪府立大学電気工学科を卒業し、日本電装(現・デンソー)に入社。エンジニアとして勤務しながら、1985年に「放課後」で江戸川乱歩賞を受賞した。今では超人気作家である東野さんの出世作となったのが、本書『秘密』だ。
『秘密』は、1998年に文藝春秋より単行本として刊行され、2001年に同社より文庫化された。1999年に日本推理作家協会賞を受賞。同年に映画化(主演 広末涼子 小林薫)された。10年以上を経て、2010年にドラマ化(主演 志田未来 佐々木蔵之介)された。当時、東野さんは次のようにコメントしている。「『秘密』は、世間の皆様からようやく作家として認めてもらえたと実感できた小説です。この作品がなければ、おそらく今の私はなかったでしょう」(「ORICON NEWS」より引用)。
1985年、平介の妻・直子と小学5年生の娘・藻奈美を乗せたバスが、崖から転落した。藻奈美をかばうように覆いかぶさっていた直子は亡くなり、藻奈美はほぼ無傷だった。直子の葬儀の夜、意識を取り戻した藻奈美は「あたし。直子なのよ」と言う。信じがたいことに、死んだはずの直子が藻奈美の体に宿っていた。
平介と彼女(意識は直子、体は藻奈美)はその事実を2人の秘密にして、外から見れば父娘、中身は夫婦の生活が始まる。平介が図書館で調べた過去のケースによると、「今の状態がしばらく続いた後、直子の人格は突然消え、藻奈美が蘇る」ことが予想される。真の直子の死、藻奈美の蘇生はいつ訪れるのか。妻と娘の両方が助かったのか、両方を失ったのか。平介の胸中は複雑だ。
一方の彼女は、直子の36年間の人生で、生きていくための術を何ひとつ身につけられなかった後悔がある。10代の若さを手に入れた今、2度と同じ思いをするものかと、勉強と部活に勤しむようになる。平介は依然として彼女を妻だと思っていたが、人格は直子であっても、感性は藻奈美のものに変化しつつあった。
平介は、若さを手に入れた彼女に、彼女と青春を楽しめる若い男たちに嫉妬する。また、彼女に恋愛感情や肉欲を抱けない自分の立場を呪う。平介と彼女は、2人の間にある「未来永劫埋まることのない溝の存在を認識し、たまらなく悲しくなっていた」。2人の切ない関係が、淡々と、丁寧に描写されている。
「妻が娘の体に宿った」ことが、平介と彼女と読者の「秘密」である。ところが、2つ目の「秘密」を読者は最後に知ることになる――。文庫本は今年、第66刷の重版となっている。本書は、1度は必ず読んでほしい名作。
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