感染症は口で止めることができるのだという。本書『すべての不調は口から始まる』 (集英社新書)は、病気予防で「口」が果たす重要な役割を説いている。単なるむし歯予防にとどまらない。さまざまな病気を「口の中」を清潔にすることでブロックできる。帯では「ウイルス対策は口腔ケアから」「唾液力を信じなさい」と強調している。
著者の江上一郎さんは1947年生まれ。歯学博士。江上歯科(大阪市北区。歯科、歯科口腔外科、口臭外来、予防歯科、小児歯科)院長。専門は口腔衛生・歯科口腔外科。日本歯科医師会会員。日本口腔衛生学会永年会員。日本口臭学会口臭認定医。日本糖尿病協会会員。大阪市学校歯科医会北区大淀支部長。「口腔は全身の健康の玄関」「口腔ケアのカギは唾液」を掲げ、地域医療、自治体や学校、メディアで口腔ケアを啓発している人だ。
本書でまず江上さんは、「口」は食べ物やウイルスなどを外界から取り込んでいる臓器だと規定する。つまり「体の玄関」。消化管を通して肛門まで、毛細血管を通して脳ともつながっている。インフルエンザ、風邪、ノロウイルス、肺炎などの原因となるウイルスや細菌は主に口から入ってくる。「口腔を清潔にして、唾液の分泌を促すこと」がこれらの病気の予防につながる。
なぜなら、ウイルスや細菌は乾燥した口腔やのどを好み、のどを通過して器官や肺に炎症を起こさせるからだ。歯周病原菌はインフルエンザウイルスが気道の粘膜から細胞に侵入するのを助けるように働くこともわかっている。むし歯や歯周病などの口腔感染症が、糖尿病や誤嚥性肺炎、アルツハイマー型認知症、大腸がん、インフルエンザなどの疾患の誘因となることが明らかになっているそうだ。
口の中は「口腔」と呼ばれる。「腔」とは空洞の意味。この口の中を健康に保つことが様々な病気の予防に役立つというわけだ。
そのために重要な働きをしているのが「唾液」だという。口腔全体を「よい状態」にするため24時間働いている。唾液には、口腔をウイルスや細菌、傷害から守る多様な作用がある。本書では、歯学的根拠に基づいたセルフケア法、唾液と内臓の働き、全身の健康との関連性などを詳述する。
最近、「腸内フローラ」といって、腸内で重要な働きをしている細菌が注目されている。江上さんによれば「口腔フローラ」もあるそうだ。「口腔内常在細菌叢」のこと。外部から口の中に入ってくる食べ物、飲み物、ウイルス、細菌などと闘いながら、口腔を良い状態に維持しようと働いている。
本書は以下の構成。
第一章 口腔ケアのカギは「唾液力」 第二章 大人の「口腔トレ」をすぐ実践! 第三章 大人のむし歯は痛みが鈍い理由 第四章 大人の口のための「唾液重視歯磨き法」 第五章 唾液活用で口臭ケアを 第六章 歯の黄ばみは唾液で防ぐ――自分でケアする方法 第七章 本当に怖い歯周病の正体――体と脳を壊す 第八章 新しく健康保険が適用された歯周病、むし歯の治療
いくつか興味深いことが出てくる。たとえば「口の中には便と同じ量の細菌が存在する」。唾液1ミリリットルの中には1億~100億個、歯垢1グラムの中には1000億~2500億個の細菌が存在し、これはヒトの便1グラムの細菌数と同じか上回るという。この細菌の数や質、バランスが良ければ口腔フローラも良い状態になる。唾液の分泌量が減ったり、口腔ケアが不足したりすると、細菌が繁殖する。
「食後すぐの歯磨きはむし歯予防にならず逆効果」「食後は水で口をすすいでからゴクンと飲みこもう」という項目もある。
食後の20~30分間は唾液分泌が多い。特に歯磨き剤でゴシゴシ磨く必要はないのだという。むしろ、せっかく分泌された唾液を洗い流すことになってしまう。口の中の細菌は食事で胃に流されて激減している。歯みがきで爽快になるが、香料などによる効果に過ぎない。それよりも、一口程度の水で口の中をグチュグチュすすぐだけで良いという。なぜなら食後すぐは前述のように細菌が流されているから。むしろ歯みがきのタイミングは下記の時間帯を勧める。
・もっとも重要なのは「夜寝る前」 ・次に「起床すぐ」 ・余裕があれば「食後30分後以降」
理由は、睡眠時に唾液の分泌が激減することによる。つまり、寝ている間に口の中では細菌が繁殖し、虫歯や歯周病も進行するというわけだ。
本書はこのように、口腔ケアの大事さを説きつつ、これまでの常識にも異を唱える。日ごろの対策としては、「歯科医院での健康保険適用の『定期健診』がもっとも有用」だとも。これは評者も実行しているので、同感だ。歯が痛んでから歯科に行っては遅すぎる。
BOOKウォッチでは関連で『糖尿病がイヤなら歯を磨きなさい 内科医が教える、お口と体の健康の新常識』(幻冬舎)、『やってはいけない歯科治療』(小学館新書)、『早い! 安い! 痛くない!「部分矯正」歯科で美と健康を手に入れる』(クロスメディア・パブリッシング)、『病が語る日本史』 (講談社学術文庫)なども紹介している。
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