食べることは、生きるための基本であり、食べるために「歯」は欠かせない。その大切な歯について近年は、新しいことがどんどんわかってきており、かつての常識とされたことが、そうでななくなってきている。本書『やってはいけない歯科治療』(小学館)は、そうした実態を指摘、現代の歯についてのリテラシー向上をサポートする一冊。
中高年世代が子どものころは、虫歯になったら早く歯医者に―というのが刷り込みであり、同世代の多くの人たちには銀歯で治療した歯があるだろう。本書によると、その銀歯治療は、後になって歯を失う可能性を生むこともあるという。「成人の7割」に入っているというデータがある銀歯。治療の仕方によっては、天然歯との隙間から新たに菌が侵入するなどして虫歯が再発、自覚症状が出た時には、歯の寿命を縮めるような事態にもなるからだ。
著者は医療問題に取り組むジャーナリスト、ドキュメンタリー作家で、本書は取材に2年を費やしてまとめあげたもの。取材の過程で歯科業界が転換期にあることを感じたという。銀歯治療についても、患者にとってより優しいコンポジット・レジン修復という方法が中心になるとみる。
銀歯を使った治療は、1970年代にあった、どこの歯科医院にも行列ができる「虫歯の洪水時代」に、その効率性から重宝され主流になったという。押し寄せる患者を歯科技工士らとの分業でさばけることから「切り札」的治療法になった。銀歯治療で歯科医師は虫歯を削って型を取る。かかる時間は短ければ10分程度。治療の歯に充てる銀歯の製作は歯科技工士に任せ、患者には後日再来院してもらう。
コンポジット・レジン修復は、歯を削る量が少なく、その日のうちに治療が終わるなど患者にとってはメリットが大きいのだが、歯科医の作業時間が最低でも30分、場合によっては1時間以上もかかり、患者の洪水を乗り切れなくなってしまうのだ。
その効率性から、虫歯の洪水時代にあっては最善策との評価もある銀歯治療だが、当時から問題点を指摘する声もあり、近年はその声が強まっている。また昨今は、東京などではコンビニ並みに歯科医院がひしめく時代。激化する競争を勝ち抜くためには、より患者にやさしい治療の提供が求められることになる。
虫歯といえばこれまでは、治療しなければ治らない、とか、早いうちに診てもらえば削る量も少なくすむ、などとされ、痛みを感じたらそうしてきた人たちが多いはず。とにかく「自然には治らない」「放っておけばどんどん悪くなる」というのが常識だ。ところがいまは「初期虫歯は、自然治癒する。削らずに見守る方がよい」というのが常識になったという。
著者は専門家からこれを聞いたときに「耳を疑った」ものだが、ほとんどの人が同じ感想を持つに違いない。
唾液が持つ再石灰化の機能に依存したもので、歯科医らの間では、初期虫歯の段階では、口腔内を清潔にして再石灰化による治癒を目指すという考え方が主流になってきたという。この「再石灰化」のメカニズムは、虫歯予防にも有効で、食事の間隔を空けてそのための時間を確保したり、酸性の食品を長く口中に入れないなどで発揮される。疲労回復などを目的に酸性食品の摂取が勧められるが、歯のためにはほどほどがいいらしい。
再石灰化が機能するメカニズムは1990年代には解明されていたという。著者は、歯科業界がこの知識を広めず虫歯予防が歯磨き一辺倒だったのは疑問が残ると述べている。
その歯磨きについても、歯ブラシだけでは十分なケアができないことを専門家の解説をまじえ指摘。こうした暮らしレベルのことから、インプラントなどの高度な治療や予防歯科のことまで、本書は歯についてのさまざまな問題について触れている。「日本人のデンタルIQは低い」と嘆く歯科医が多いと本書で報告されているが、その一人だったことを自覚せざるを得なかった。
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