日頃、スマホの地図アプリ・グーグルマップのお世話になっている人は多いだろう。グーグルマップが登場する前、我々はどうしていたのだろう? 地図を頼りに目的地を探し、分からなければ近くの人に尋ねていた......それでも見つからず、道に迷うこともしばしばだった。
本書『NEVER LOST AGAIN グーグルマップ誕生』(TAC出版)の「NEVER LOST AGAIN」は「もう道に迷わない」という意味。ポケモンGOの生みの親としても有名になったジョン・ハンケを中心とするグーグルマップ開発チームの物語だ。著者のビル・キルデイはジョン・ハンケの興したベンチャー企業キーホールでマーケティング・ディレクターを務め、立ち上げから完成まで一緒にいた人物。開発のストーリーもさることながら、スタートアップ(起業)の意義をこれ以上雄弁に物語る本はないだろう。
ハンケとキルデイはテキサス大学の寮で出会った友人同士。寮で自分のパソコンを持っているのはハンケだけだった。1999年、ハンケはキルデイにある画像を見せた。鮮明な地球の姿、住所を打ち込むと画面は宇宙空間から地表にどんどんズームし、キルデイの家の建物を映し出していた。次に画面はグランドキャニオンに移動し、鳥の眼で溪谷の美しい景観を見た。あまりの感動に言葉が出なかった。グーグルマップの元になった「キーホールアースビュー」の最初のデモだった。ちなみに「キーホール」とは、アメリカのスパイ衛星から付けた名前。
世界中の画像データを買い集め、ソフトをつくり上げて行く一方で、会社はいつも資金繰りに苦労した。20人の社員の給与を大幅にカットしても、あと3カ月で会社を畳むしかないと思い定めたある日、事態は大きく変わった。2003年3月、CNNとの契約がまとまったある日、アメリカ軍のイラク進攻を24時間伝える番組が「キーホールアースビュー」を動かし、バグダッドの爆撃の状況をほぼリアルタイムで伝えたのだ。画面にURLも映っていたため、世界中からアクセスは殺到、サーバーはダウンした。うれしい悲鳴だった。
米国議会、国務省、国防省、CIAなどから大量発注があり、アメリカ政府のために全データ、ソフトウェア、ハードウェアを含むシステムのプライベートバージョンをつくることになった。価格は問題ではなかった。
翌04年、グーグルから3000万ドルの買収オファーがあり、社員29人全員が雇用されることを条件にこれを受けた。グーグル内部での派閥争いのエピソードを交えながら、グーグルマップの公開までが描かれる。何と言ってもすごいのは、無料で公開したことだ。著者もこれには驚いたが、経済的な合理性を超えた、とほうもない行動がグーグルらしさ、ということのようだ。「普通の会社をめざさない」という創業者たちの個性が強烈だ。
その後、史上最高の無料ソフトと言われるグーグルアース、街の様子を走る車内からの視線で伝えるストリートビューの公開とグーグルの地図アプリの進化は止まらない。だが、その中核の技術と発想は、ジョン・ハンケがつくった小さな会社にある。
彼は大学卒業後、国務省の外交局に勤め、ビルマ(現ミャンマー)に転勤した。その後カリフォルニア大学のビジネススクールに在学中、インターネットゲーム会社を立ち上げ、スタートアップを繰り返し、キーホールを創業した。やがてグーグルで成功を収めながらも、グーグル社内に会社をスタートアップし、ポケモンGOをつくった。彼の人生はスタートアップの連続だ。
いまグーグルをはじめとしたIT企業は、AIを応用した自動運転技術の開発に乗り出している。詳細な地図情報がその前提となる。先日、評者が住む団地の横をグーグルのストリートビュー撮影車が走り抜けるのを目撃した。本当に撮影しているんだと思った。ビュー(眺め)の画像撮影だけが目的ではなかろう。道路に付随したさまざまな情報も同時に集められ、解析され、新たな技術で使われるのだ。グーグルによって、我々は宇宙からも路上からも丸裸にされているのかもしれない。
ジョン・ハンケについて本欄では、『ジョン・ハンケ 世界をめぐる冒険』を紹介している。
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