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ガリレオ湯川が復讐劇の謎に挑む、シリーズ最新作

沈黙のパレード

 ミステリーのベストセラー作家・東野圭吾さんの最新作が登場した。発売(2018年10月10日)と同時にオリコン週刊BOOKランキング(集計期間10月8日~14日)1位をゲット。その後も各種ランキングで上位が続いている。東野さんの新作は出版と同時に必ずと言っていいほど、飛ぶように売れる。東野人気はすさまじい。

 『沈黙のパレード』(文藝春秋)はガリレオ・シリーズ最新作(9作品目)になる。このシリーズは『探偵ガリレオ』が第1作で1998年にスタートし今年が20周年だ。

 ガリレオというのは、シリーズの主人公である物理学者・湯川学のニックネーム。このシリーズでは、湯川が大学時代の友人で警視庁刑事の草薙俊平に協力して、難事件を次々に解決してきた。一見、オカルト現象に思える不可解な事件を、科学者の眼で解決していく。ガリレオは、近代科学の祖とされる「ガリレオ・ガリレイ」にちなんでいる。ガリレオは人気シリーズとなり、第3作目の『容疑者Xの献身』は2005年下半期の直木賞を受賞している。

 テレビドラマ、映画でも有名だ。湯川役が福山雅治。いかにも科学者らしい冷めた風貌・雰囲気がはまり役で、テレビドラマは大ヒット。映画では『容疑者Xの献身』『真夏の方程式』があり、こちらも福山が湯川を好演していて、記憶している方も多いのではないだろうか。

 さて、『沈黙のパレード』だが、歌手をめざしていた街の人気者の娘が遺体で発見された。容疑者の男は証拠不十分で釈放されてしまう。その男も遺体で見つかった。男殺害の容疑者は、彼女を愛した街の人たち。しかし、彼らには完ぺきなアリバイがあった。復讐劇はいかにして成し遂げられたのか。殺害方法、アリバイのトリック......。数々の謎にガリレオ湯川が立ち向かう。本格ミステリーの魅力を満喫できる物語になっている。

 本作の今一つの魅力は、復讐という枠組みを設定していることだ。愛する人を殺された遺族はいかにして救済されるのか。その重い問いかけが、物語の土台に位置付けられている。

 ふつうは、犯人は捜査当局に逮捕され、裁判で裁かれ、罪が明らかにされ罰が科される。そうすることで、被害者側の報復感情はいやされる。仕組みはそうなっている。刑事ドラマで刑事さんが遺族に対して「みなさんの無念はきっとわれわれがはらしてみせます」と訴えている。その通りだ。個人的な報復(復讐)は許されないのがルールである。

未解決事件の被害者遺族の心情

 しかし、未解決の場合はどうなるのか。容疑者が狡猾で証拠隠しに成功したりして、捜査の目をかいくぐる場合はどうなるのか。その悪質さは、被害者の心を深く傷つけてゆく。

 本作では、登場人物の1人が犯罪被害者側の心情を語る、こんなくだりがある。

 「警察には期待できない。裁判所は奴を罰しない。だったら、我々がやるしかないじゃないか、と思ったわけです」

 遺族らの無念さがていねいに描き出されることで、読者は、彼らの心情に寄り添うようになってくる。読者は、復讐劇の展開を追いながら、ルールと被害者遺族への心情との間を、いったりきたりするサスペンスを味わうことになるのだ。

 東野作品には『さまよう刃』(2014年)、『禁断の魔術』(ガリレオ・シリーズ8作目、2015年)など復讐劇の流れがある。これら2作と本作それぞれでストーリー展開は異なるが、東野さんはいま、復讐というテーマにさまざまなアプローチで挑んでいるように思える。

 本作終章で、登場人物の一人が、湯川のことを、「まるでエルキュール・ポワロ」と評する場面がある。エルキュール・ポワロは、英国の推理小説家アガサ・クリスティが生み出した名探偵だ。ん? ポワロ? なぜここで、ポワロの名前が出てくるのだろうか。

 そういえば、ポワロが解決した難事件のひとつに復讐劇があった。『オリエント急行殺人事件』。ミステリー史に残る名作だ。東野さんは、その作品への思いから本作を構想したのだろうか。『沈黙のパレード』が、その名作をしのいでいるのかどうか。見極められてはどうだろうか。

 なお、『禁断の魔術』で湯川と草薙が仲たがいしたが、その和解のエピソードが、本作で登場する。高級ワインをめぐってのいきさつは、ガリレオファンとしては、興味深かった。そんな楽しみ方もできるのがシリーズものの魅力だろう。

 本欄では東野作品として、『秘密』『魔力の胎動』などを紹介している。  

  • 書名 沈黙のパレード
  • 監修・編集・著者名東野圭吾 著
  • 出版社名文藝春秋
  • 出版年月日2018年10月10日
  • 定価本体1700円+税
  • 判型・ページ数四六判・440ページ
  • ISBN9784163908717
 

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