歯磨きの励行など口内ケアをしっかりやると、重い糖尿病も劇的に改善する可能性があるという。糖尿病専門医ながら「糖尿病予備軍」だったと振り返る、お笑いネタのような内科医が、ほかの医師から「このままだったら死ぬぞ」と警告され、お口のケアに賭けたところ、なんと「奇跡とも思えることが起こった」。高血糖が解消、92キロあった体重が18キロ減などすっかり健康的になったという。
『糖尿病がイヤなら歯を磨きなさい 内科医が教えるお口と体の健康の新常識』(幻冬舎)は、その内科医の本。自らの不養生を反省しつつ、奇跡の体験をもとに、ほぼ門外漢である歯科の勉強、研究を重ねたところ、お口の病気である歯周病が糖尿病はじめ、多くの病気と深くつながっていることなどを発見、その成果をまとめたものだ。「口は禍の元」に新たな解釈(?)を加える一冊。
著者が引用している厚生労働省の調査結果によると、日本人の成人の8割が歯周病であり、糖尿病と同じく「国民病」のレベルに達している。二つの病気には、そんな不吉な共通点はあるものの、一方が他方に働きかける関係があることなどは知られていなかった。だが著者は自らの体験から、糖尿病と歯周病は「密接な関係」にあることを知る。それは、歯周病は「慢性炎症」としてくすぶり続け、そこからはき出される、悪玉ホルモン(炎症性サイトカン)がインスリンの効果を妨げ血糖値を上昇させているというもの。「慢性炎症」について著者は、これまであまり知られていなかっただけに、今後の医療の重要なテーマになるとみている。
著者が大学病院の糖尿病内科に勤務していた際、インスリン治療で通院していた42歳の男性患者の数値が悪化し入院して治療を行うことになった。入院時の問診で患者には、歯周病の症状があることが判明。歯科口腔外科で診断したところ重度の歯周病であることが分かり、上下2回に分けた治療と歯科衛生士によるクリーニングが行われた。
入院当初から患者には毎日インスリン注射を4回行ったうえに食事制限をしていたにも関わらず血糖値は高止まりしたままだったが、歯周病治療を終えるころから下がりだす。注射の量も減りついにはゼロに。治療は飲み薬1種類だけになり退院にいたったという。
この成り行きを目の当たりにした著者は、歯科医師会との共同研究を提案。その立ち上がりを前に自らも歯周病の治療を受けることを決意し、糖尿病予備軍の状態を脱することができたという。今では知人の歯科医らからは「日本で一番歯周病治療にうるさい糖尿病専門医」と呼ばれている。
「慢性炎症」は、歯周病によるばかりではなく、内臓脂肪でも起きている。不摂生を続けていると中性脂肪をためている脂肪細胞が肥大。それが異物と認識されて免疫機能が発動され、いわば戦いとなり、炎症化。その状態が長期化すると慢性炎症となり、ここでも悪玉ホルモンが出されインスリンが効きにくい状態をつくり、高血糖、ひいては糖尿病の原因に。また、血圧上昇を招き、不整脈を起こしたりする。
「昔は、太った人のお腹は単なる脂肪の塊だと思われていた。それが実は、ただの『脂身』ではなく、人体でも最大の悪玉ホルモンをつくる工場だということがわかってきた」と著者。慢性炎症はまた、発熱や痛みなどの自覚症状がなく、気づかないまま長期間放置される可能性があり、それが「恐ろしい事態」を引き起こす可能性がある。
厚労省が2017年9月に発表した「国民健康・栄養調査」の結果によると「糖尿病が強く疑われる者」と「糖尿病の可能性を否定できない者」の推計人数はともに1000万人。いわば公式的には、予備軍を含めて糖尿病人口は2000万人。ところが「疫学的に最も信頼できる研究データ」という、九州大学の「久山町研究」から類推される糖尿病人口(予備軍を含む)は4000万人にのぼる。40歳以上をみると、男性では2人に1人、女性では3人に1人が、糖尿病か予備軍という。
糖尿病あるいはその予備軍の自覚のある人で、お口の状態に自信のない人は、本書の勧めるケア方法を試してみてもいいのでは。
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