読むべき本、見逃していない?

七年がかりで四国八十八か所を制覇した

お遍路ズッコケ一人旅

 お遍路というと、何か重苦しい雰囲気が付きまとう。ところが本書『お遍路ズッコケ一人旅――うっかりスペイン、七年半の記録』(青弓社)は明るい。ズッコケ、というタイトルが内容を象徴している。中年女性がゆっくり時間をかけながら、四国のみならず、スペインまで足を伸ばしたウォーキング記録だ。全体に「ほほえましさ」が漂っている。

「ピンクハウスのワンピース」

 著者の波環(ナミ タマキ)さんは1968年、北海道生まれ。奈良女子大学文学部卒業。現在、北海道の放送局に勤務。著書『宝塚に連れてって!』(青弓社)を98年に出版。同年に長男を出産し、1年間の育児休業を経て職場復帰。趣味は宝塚歌劇などの観劇、関ジャニ∞、ホットヨガ、スキー、茶道(表千家)、着物など。

 経歴やお仕事はきちんとしているが、趣味からはミーハー的な部分ものぞく。あるとき「ピンクハウスのワンピース」をもう着ることができないことに気がついてショックを受けたという。花柄がプリントされ、フリルが縫い付けられているメルヘン的なデザイン。着たかったころには高くて買えなかったが、買えるようになったのに着られない。本書はそんな微妙な「女子心理」から始まる。このくだりを読んだだけで、多くの読者は著者とお遍路のミスマッチを実感するかもしれないが、著者が言いたいのは、やりたいと思ったら無理してでもやりましょう、ということだ。

 お遍路にチャレンジしてみたいと思ったきっかけはある。それは2011年3月11日の東日本大震災だ。その日、著者は北海道から上京し、港区汐留の大きな会議室にいた。電通や日本テレビがあるシオサイト。全国から100人ほどが集まっていた。突然の大きな揺れ。机の下に入ってくださいと叫ぶ司会者。状況が分かるにつれ、東北からの参加者が涙声になる。

 都心の交通も大混乱になった。著者は何とか青山まで地下鉄でたどり着き、そこから新宿のホテルまで2時間歩いた。まさかの時には「歩く力」が必要だということを痛感する。北海道に戻り、ウォーキングやランニングを始めた。それが「お遍路」への導火線となる。

宿は三種に分かれる

 著者は働いているので、長期の休みは取れない。しかも住んでいるのは北海道。というわけで3日間の連休がある時期を利用して四国に舞い降り、コツコツ「巡礼」を継ぎ足していく。本書にはその行程表も掲載されている。もちろんその前段となる計画づくりについても詳しい。例えば宿は3種に区分けされている。市街地の宿、昔からの宿場町の宿、山の中のそこしかない宿だ。どこを選ぶか、値段はいくらか。食事や風呂はどうなっているか。この辺りは「主婦」の金銭感覚が溢れている。

 荷物や服装なども細かい。放送局勤務者だけあって、旅程での出来事や驚きが、まるで実況中継でもするかのごとく次々と浮かび上がる。仕事で鍛えた観察眼が生きている。足のトラブル防止法なども記されている。

 お遍路には特有の用語もあるそうだ。「お四国する」「お四国」が代表例。「お遍路する」「お遍路」の意味だ。

 徳島県の19番札所、立江寺を出て歩いている時のこと。夕方になり、どんどん暗くなるが、宿までは遠い。トイレに行きたくなり、飲み物も欲しくなる。やっと見つけたガソリンスタンドには自動販売機がない。思い切って店に入り、トイレを借りる。飲み物を買わせてくださいと申し出ると、店の人は冷蔵庫からペットボトルの水を取り出した。いくらですかとたずねると、「お四国か?」と聞いてくる。そうですと答えると、「いらない」という答えが返ってきた。

スペインの聖地にも挑戦

 こうして著者は2013年2月から19年11月まで14回のお遍路で八十八か所を制覇する。本書はその約七年の記録というわけだ。重いリュックを背負ってひたすら歩いた日々がつづられている。

 お遍路でお寺にお参りすることは「打つ」というそうだ。一気に八十八か所を回るのは「通し打ち」。著者のような「三連休巡礼」は何と呼ぶのか。

 お遍路体験記は世の中にたくさんある。本書はそれらのいくつかについて巻末で紹介している。車谷長吉の『四国八十八ヶ所感情巡礼』、家田荘子『四国八十八ヵ所つなぎ遍路』などのほか、紀貫之の『土佐日記』まで登場する。これからお遍路をしてみたいという人にとっては、本書と同時に参考になることだろう。

 副題に「うっかりスペイン」とあるのは、途中でスペインの聖地、サンティアゴ・デ・コンポステーラにも出かけていることによる。仏教の八十八か所のみならず、キリスト教の巡礼地にも足を運んだ稀有な人だ。

 BOOKウォッチでは関連で、『昭和の終着駅 中国・四国篇』(交通新聞社)、『地形図でたどる日本の風景』(日本加除出版)、『井筒俊彦の学問遍路』(慶應義塾大学出版会)、『くるま暮らし。』(飛鳥新社)、『秘境神社めぐり』(ジー・ビー)、『東京から日帰りで会える 仏像参り』(幻冬舎)、『仏像の光と闇』(水王舎)なども紹介している。

   
  • 書名 お遍路ズッコケ一人旅
  • サブタイトルうっかりスペイン、七年半の記録
  • 監修・編集・著者名波環 著
  • 出版社名青弓社
  • 出版年月日2020年4月21日
  • 定価本体1600円+税
  • 判型・ページ数四六判・180ページ
  • ISBN9784787292544

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