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四国・琴平には4つも鉄道が集まっていた!

地形図でたどる日本の風景

 地図の愛好家というのは意外と世の中に多いようだ。本書『地形図でたどる日本の風景』(日本加除出版)の著者、今尾恵介さんの本は重版になることも多く、各社からこのところ相次いで出ている。BOOKウォッチでも『地図帳の深読み』(帝国書院)、『地図で楽しむ日本の鉄道』(洋泉社)などを紹介している。

鉄道が地図にメリハリ

 今尾さんの強みは「地図」と「鉄道」の二つの引き出しを持っていることだ。だから、鉄道ファンの読者も多い。まさに評者がそうである。

 「各地を結ぶ鉄道や道路が地形図にメリハリを与えている」

 そう書かれていて、なるほどと思った。山登りで5万分の1地形図を見ることがある。山なので、ひたすら等高線を眺めることになる。その片隅に鉄道の線路があるだけでなんとなく安心するし、見ていて楽しい。

 とは言え、本書は地形図に重きを置いている。こんな構成だ。

 地図と記号のしくみ 
 山と谷の地形を楽しむ
 海と川の地形を楽しむ
 地図で味わう鉄道
 道路と街、境界と飛地

ネットで閲覧できる国土地理院の地形図

 どこから読んでもいいが、もっとも読者の参考になるのは、国土地理院の地形図をインターネットの「地理院地図」で簡単に閲覧する方法だろう。紙の地形図は今でも大きな書店には置いてあるが、利用する人は激減している。道路地図はカーナビを、大都市の地図はスマートフォンのマップ機能を利用する人が多いだろう。

 パソコンやスマートフォンで全国の地形図(縮尺2万5千分の1)を見ることが出来る。「地理院地図」と検索して日本列島の画面が出てきたら、上部にある検索窓に閲覧したい地名を入れればいい。機能は充実している。「ツール」の「計測」では距離と面積が測れる。土地の高さは任意の地点を右クリックすれば標高が画面右下に10センチ単位で出てくる。立体的に見える「3D」機能もある。スマートフォンのマップとは違う使い勝手がある。

 自然の地形を楽しむ章では、砂丘と砂洲、峡谷、河岸段丘、マール(爆裂火口湖)、天井川、溜池、砂嘴、島を陸につなげる砂洲「トンボロ」などを全国の地形図をもとに解説している。狭い日本と言われるが、これほどさまざまな地形があるのは、山と川が織物をなすように広がっている日本ならではと思う。

石川県にあった私鉄網

 鉄道の章は少しマニアックだ。中でも「『私鉄王国時代』の加賀私鉄網」の項が面白い。石川県南西部の加賀市から小松市にかけての地域には、高度成長期まで数多くの私鉄路線が各方面を結んでいたことを、昭和34年(1959)の20万分の1地勢図「金沢」を参照して解説している。山代温泉や片山津温泉などへは、北陸本線から北陸鉄道のこれらの電車に乗り換えるのが常だった。今は全廃されたが、北陸新幹線が金沢まで延びて敦賀への延伸工事が佳境のいま、少しでも残っていたら、大きな観光資源になっていただろう。

 また、「門前町・琴平に集まった鉄道」もNHKの「ブラタモリ」でも紹介していたが、4本の鉄道がひしめく琴平周辺の地図(昭和7年)は圧巻だ。現在はJRと高松琴平電気鉄道の2本が残るにすぎないが、瀬戸内海の各港から海上交通安全や商売繁盛を祈願して金刀比羅宮へ参拝した人の流れが見えるようだ。

 本書はネットでの地図の利用法を紹介しながらも、紙の地図を見る面白さにふれている。紙の地図はピーク時の20分の1の売れ行きしかない、と書いている。地図の文化が廃れていくのに比して、マニアの地図愛は深くなる一方なのだろう。

  
  • 書名 地形図でたどる日本の風景
  • 監修・編集・著者名今尾恵介 著
  • 出版社名日本加除出版
  • 出版年月日2019年10月30日
  • 定価本体1600円+税
  • 判型・ページ数四六判・185ページ
  • ISBN9784817845924
 

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