フランシスコ・ザビエルは日本にキリスト教を伝えた16世紀の人物だ。中学生でも知っている歴史だ。しかし、死んだ後、ミイラになって今も崇拝されていることはあまり知られていない。本書『カラー版 世界のミイラ』(宝島社新書)は、ミイラにまつわる一般的な知識を一歩掘り下げた知識が紹介されている。ザビエルのミイラもその一つだ。
監修に当たった近藤二郎さんは早稲田大教授で早大エジプト学研究所所長も務める。早大名誉教授の吉村作治さんらと並ぶ著名なエジプト学者だ。著作には本格的なものに交じって中高生向けの入門書もある。そちらでなじみの人も多いだろう。
ミイラと言えば、エジプトがすぐに念頭に浮かぶ。しかし、ほかにも世界各地で確認されている。本書はミイラを「人体がそのまま保存されているもの」と定義しているので、当然多くなる。ミイラは人為的に「保存されている」と考えがちだが、自然環境に恵まれて腐敗せずに「保存された」ものも含まれるからだ。
本書で紹介されているミイラの産地は、33カ所に上る。3大ミイラ地帯とされるエジプト、中国西域のシルクロード地帯、ペルーからチリに広がるアタカマ砂漠など乾燥地帯が主だ。しかし、それだけに限らない。寒冷地ならまだしも想像がつくが、温帯や熱帯にも及ぶ。
傑作なのはペルー・チャチャポヤス市近郊のクエラップ遺跡だ。亜熱帯にあり、一帯は3000メートル級のアンデス高地。湖があって霧に包まれた森が広がる。チャチャポヤは「霧の民」のことだそうだ。
そのクエラップ遺跡の墓地で1997年に見つかったミイラは219体、約500年前のもので眼球が残っているものもあった。墓地が石灰岩に挟まれた窪地で、涼しく乾燥していたのが幸いした。
熱帯周辺では、ほかにパプアニューギニアやインドネシア・スラウェシ島、タイ・サムイ島で出ている。
意外な発見場所はほかにもある。氷河や泥炭湿地だ。氷河で見つかる理由は言うまでもない。低温だからだ。代表例は、イタリア・オーストリア国境エッツ渓谷のアイスマン。これは最も古い5300年前青銅器時代のミイラだ。
泥炭湿地の方は説明が必要だろう。近藤さんによると、泥炭湿地は強酸性で低温、酸素が少ないのでミイラになりやすい。他地域のミイラと違って皮膚や内臓がそのまま残ることがあるため、殺人事件の被害者に間違えられることもあるそうだ。鉄器時代(紀元前800年―紀元100年)の欧州が主な産地になる。有名なのはトーロンマン。デンマーク・ユトランド半島で発見された。
近藤さんの専門はエジプト学なので、エジプトのミイラについての解説は詳しい。ここでは触れないが、関心のある人は読んでほしい。
そして、冒頭に紹介したフランシスコ・ザビエルのミイラだ。ザビエルは日本への布教以外、あまり知られていないが、イエズス会の創設メンバーで聖人だ。インドのゴアを拠点にアジアで活動、1552年に中国・アモイ近くの上川島で病死した。遺骸は石灰を詰めて納棺。これがミイラになった理由だろう。その後ゴアに移され安置されている。右腕が1949年と99年に東京で展示された。
東京・上野公園の国立科学博物館では、世界のミイラ43体を集めた「ミイラ ~『永遠の命』を求めて」が2月24日まで開かれている。中には気味の悪いものもある。カラー写真とともに解説する本書は見学の参考と練習になるだろう。
近藤さんには『わかってきた星座神話の起源 エジプト・ナイルの星座』(誠文堂新光社)、『わかってきた星座神話の起源 古代メソポタミアの星座』(同)、『最新エジプト学 蘇る「王家の谷」』(新日本出版社)などの著作がある。
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