一昨年(2017年)、『応仁の乱』(中公新書、刊行は2016年)がベストセラーになって以来、日本史の本がよく売れている。同書を書いた日本史学者の呉座勇一さんやテレビでおなじみの歴史家・磯田道史さんら、30~40代の若手の歴史研究者が新たな研究の成果をふまえ、精力的に書いていることが最大の原因だろう。
日本中世史が専門で東大史料編纂所教授の本郷和人さんも積極的に啓蒙書を出している歴史家の一人だ。髭がトレードマークの親しみやすいキャラクターでテレビ出演も多い。その本郷さんが監修した本書『東大教授がおしえるやばい日本史』(ダイヤモンド社)は、もともと児童書として出た本なのに、中高年層にも火がつき、18万部のヒットとなっている。
「すごい」と「やばい」の二つのキーワードで歴史上の有名人物を面白く紹介しているのが受けているようだ。たとえば徳川家康は「たぬきオヤジ」として知られ、ずる賢い手法で、戦国の世を勝ち抜き平和な江戸幕府を作った「すごい」側面とともに、三方ケ原の戦いでは武田信玄がこわすぎてうんこをもらしたという「やばい」エピソードを紹介している。家康は「こ、これはクソではない! 腰に付けてた非常食のミソじゃ!」と言ってごまかしたという。さらにこの時の情けない顔の肖像画を描かせ、教訓としたというから「すごい」。
また、戦国時代最後のヒーローとされる真田幸村にしても、家康を追いつめた「すごい」側面と今風に言えばニートになって、お金、お酒を兄や多くの人にたかり続けた「やばい」一面もあったという。
歴史上の偉人や有名人は、「すごさ」だけが強調されがちだが、「すごさ」とともに「やばさ」も併記することによって、より親しみやすくなり理解が進むという効果があるのだろう。実際、ものごとや人には二面性があり、真実とか正しさは単純ではない、ということを児童に伝えるという意義もあると思う。
版元のダイヤモンド社には、「すごいことをしている人にもダメなところがあって、そのギャップがおもしろかった」(12歳)、「学校では歴史がずっと苦手でしたが、この本は漫画入りなのでスラスラ読めて、歴史に興味が出てきました!」(29歳)など、好意的な読者アンケートが寄せられている。
もう少し、ダメな「やばい」例を挙げると......。
弟の奥さんをうばったけど好きになってもらえない中大兄皇子 清少納言に夫をバカにされてブチギレた紫式部 歓迎ブームと思いきや仏教のお坊さんと勘違いされてただけのフランシスコザビエル 武将おたくで遺言は「推しメンの隣に埋めて」だった松尾芭蕉 ラブレターを見せびらかしてモテ自慢の土方歳三 恋愛体質すぎて明治天皇にしかられた伊藤博文 恩師にお金をたかって遊びまくる野口英世 女性を口説きまくって運命を狂わせる太宰治
学校では教えてくれない面白い話題が盛りだくさんで飽きない。和田ラヂヲさんのイラストも尋常ではない迫力で、「やばさ」を強調している。
巻末には「こんな本もおすすめ」として、本郷さんの『日本史のツボ』(文春新書)や『それでも、日本人は「戦争」を選んだ』(加藤陽子、新潮文庫)など、小学生が読んでもわかる本を紹介している。
ところで、1カ所疑問点を見つけた。源頼朝の項で「頼朝は伊豆の島へ流され、都会のプリンスから田舎のニートへ一気に転落してしまいます」とある。島流しされたように読めるが、流刑先の蛭ケ小島(あるいは蛭ケ島)は、現在の静岡県伊豆の国市にある水田地帯で、まったくの陸地。島だと勘違いしている人も少なくない。次の版での修正が望まれる。
当サイトご覧の皆様!
おすすめの本を教えてください。
本のリクエスト承ります!
広告掲載をお考えの皆様!
BOOKウォッチで
「ホン」「モノ」「コト」の
PRしてみませんか?