「歴史ものは今、ヒットの主戦場」だそうだ。なかでも日本史の本が昨年(2017年)来、よく売れている。『応仁の乱』(呉座勇一著、中公新書)は、2016年刊だが、昨年火がつき大ベストセラーとなり、似たような『観応の擾乱』(亀田俊和著、同)も「二匹目のどじょう」効果もあったのか、そこそこ売れた。昨年末に出た磯田道史さんの『日本史の内幕』(同)も15万部を超えるベストセラーに。磯田さんはNHKBSプレミアムで放送中の「英雄たちの選択」のキャスターも務め知名度も高いので、その人気ぶりもうなづける。
そんな中公新書の独走を許すなとばかりに、文藝春秋が新年早々(2018年1月)満を持して出したのが、本書『日本史のツボ』(本郷和人著)だ。『内幕』がエッセー集なのに対し、『ツボ』はコンパクトながら通史の体裁を取っており、より学術的な記述が特長だ。
本郷さんは東京大学史料編纂所教授で専門は中世史。本書は7つのテーマ、すなわち天皇、宗教、土地、軍事、地域、女性、経済というテーマに沿って、古代から近代までの日本の歴史を見通している。
たとえば天皇の章。663年、ヤマト王権が朝鮮半島で唐と新羅の連合軍と戦っていた百済を支援し、敗北した(白村江の戦い)が天智、天武、持統の3天皇の改革につながったという。彼らは外圧に対抗するため「日本ブランド」を創生したと本郷さんは説く。「天皇」の呼称もこの時期に生まれた。中世、近世と存在感が薄くなった天皇が幕末維新の時代にふたたび「王」としての役割を担うことになる。「日本が『外圧』による危機に晒されたとき、新しい『ビジョン』を掲げる。それが日本における天皇の役割だといえるかもしれません」と解説する。昭和の敗戦における天皇の役割もこの流れにあるという本郷さんの指摘は新鮮だ。もちろん、担ぎ上げられたケースもあるだろう。
ほかのテーマも同様に、歴史の流れを押さえた上で、本質をずばり突く。土地にかんしては、地方の在地領主たちが実力で土地を守ったのが武士の誕生で、やがて大名となる。信長は一元的な統治権力による所有権を保障しようとし、家康が実現した。そうした日本社会の内在的な発展として「所有」や「自由」が確立してきたと見る。
本郷さんの本職は『大日本史料』のうちの第五編という史料集を編纂することだ。鎌倉時代の中期が専門だ。だから、本書のような通史を書くと、「いかがわしい」と思われ、相手にされないだろうと「あとがき」に自嘲的に書いている。しかし、本書はよく書けていると思う。「権門体制論」や「将軍権力二元論」など専門的な議論を押さえた上で、歴史の流れを浮き上がらせている。本書の帯に「歴史は暗記科目じゃありません」とご本人のことばが書かれているが、覚えようとしなくても日本史の本質は頭に入ってくる。出たばかりだが、Amazonの歴史ジャンルで早くも13位につけている。これも日本史ブームの御利益か。
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